Scribble at 2022-02-16 09:42:51 Last modified: unmodified

調べてみて気づくことだが、実は思ったほど "golden ratio" というキーワードを使った書籍というものは出版されていない。この国では定期的に、まるで馬鹿な実務の一つとして闇雲にパソコンのパスワードを変更するかのごとく、体裁や話題を替えて「黄金比」にかかわる本を出版しようとする連中がいるようだが、現実には大して売れない。つまり、僕が思っていたよりも多くの人々は、そういうイージーな方法だけで設計やデザインができるとは思っていないと判断しているらしい。よって「黄金比を使ってウェブ・デザインしよう」などと騒いでいるのは、DeNA のバイト学生に原稿を書かせているオンライン・メディアの編集者だけだということのようである。それに、昨今では「黄金法則」だの「黄金法」だのと微妙に混同するような言い換えを使って、フィボナッチ数列や黄金比と何の関係もない規則性や比率を宣伝に使っている事例もあり、そのうちデザイナーを志す学生からも「はいはい。黄金比、黄金比」とあしらわれるていどの素人考えとして定着するのかもしれない。PHILSCI.INFO の落書きでウィルソンという生態学者の評価について起きている論争を取り上げた際に、わざわざ論争へ加わろうとしている科学者が "Ignored long enough, the lie becomes canon." と述べていたことを紹介したが、僕も似たような動機で〈黄金比馬鹿〉を粉砕しようとしていたのだが、どうも杞憂に終わりそうではある。だからといって、こういうことは癌の治療と同じで徹底的にやっつけておかないと、何度でも(それこそ僕らが〈文化的な水準で言って死ぬ〉まで)出版物やウェブ・ページとして現れてくるだろう。よって、或る種の文化的なキラー細胞や白血球として論説を残す意義も少しはあろうかと思っている。

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