Scribble at 2021-08-15 02:16:50 Last modified: 2021-08-16 09:42:22

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セス・ゴーディン『パーミションマーケティング―ブランドからパーミションへ』(翔泳社、1999)

軽妙な文章ゆえか、僕はセス・ゴーディン(Seth Godin)という人物の著作を読まずに〈面白い人物〉としてだけ記憶していたのだが、いよいよ彼が書いた『パーミッションマーケティング』を読んでみて、はっきり言えばたいへん失望した。この本を 1/3 くらい読んだところで閉じたまま処分の対象としたし、まだ読んでいない All Marketers Are Liars も読まずに処分する可能性がある。

本書は、もちろん論説のテクニックとしても、それから経営学としても(どれほどの実績や経験があろうと)アマチュアの書き手による著作物なので、学術書の体裁をとっておらずエッセイ風に叙述されているのは構わない。そういうくだらない意味での「アカデミズム」などクソの役にも立たないことは、経営学という学問の実績(の貧弱さ)そのものが自己証明している。しかし、だからといってただの個人的な実績や経験を書き並べるだけでマーケティングや企画・広告について語れるものでもない。それは、元 Yahoo! 副社長が語る自慢話にすぎない。

それに加えて、前世紀(1999年)に原著が出版されたという点での弱みを補って好意的に解釈したとしても、要するにゴーディンが言う「パーミッション・マーケティング」とは、つまるところプレゼント・キャンペーンに引っかかる消費者についてのパーソナライゼーションのことでしかないのだ。こんなことは、既に多くのネット・ベンチャーが当時ですらやっていた筈である。そして Yahoo! は、当時のデータ量や解析の技術だと、現在の Google や Amazon と同じレベルの personalization など出来ていたわけもない。それどころか、原著が出版された翌年の2000年当時ですら Yahoo! は Google のエンジンでキーワード検索を提供していたくらいなのである。よって、パーミッション・マーケティングの骨子は、インセンティブに引き寄せられた消費者に対する営業活動のことでしかない。

実際、ゴーディンがパーミッション・マーケティングの成功事例として引き合いに出しているのは、〈Amazon の利用者〉に対する広告やセールス活動である。しかし、このような事例を出している時点でプロのマーケターや営業なら話がおかしいと気づかなければいけない。なぜなら、〈Amazon の利用者〉になっている時点で、既に Amazon の営業活動の大部分が完了してしまっているからだ。後は自社のサービス・サイトで利用者をどのように誘導したり、どういうインセンティブで反応を引き出すかは、Amazon の思うままにできるであろう。しかし、WWW 上でページや情報を検索したりネット・サーフィンしている「通行人」とゴーディンが呼ぶ人々の関心を、どう自社のサービスに向けるかが広告やマーケティングの活動であり目的である筈だ。既に Amazon の利用者としてアカウント登録している人々に対する相当に企業側にとって有利な立場からの販売施策を聞かされても、それこそ大名商売の手順を聞かされているだけでしかない。考えてもみてもらいたい。Amazon はテロ組織やマフィアがマネー・ロンダリングに利用していると報告された、洋書カテゴリーに膨大な数で〈書籍〉として出品されているメモ帳やグラフ・ペーパーの類を全く排除していない。とっくに愛想を尽かしたユーザが離れていってもいいくらいのものだが、それでも我関せずである。それだけ、欠点を差し引いても強力な利便性があるからだ。実際、僕もこの手の Logbook や Notebook の類には検索していてイライラさせられるが、それでもアマゾン以外に安く洋書を買えるサービスは存在しない。これだけ離れ難い利用者を維持しているのだから、その場でどういう施策を展開しようと Amazon の思うがままとすら言える。こんな有利な条件で展開されている販促を聞かされても、何の参考にもならないはずだ。

ともかく、読めば読むほど下らないという印象が強くなるばかりなので、これも BBT 大学によるクズみたいなビジネス本と同じく、読了するまでもなく古本屋へ処分することにした。だいたい、インセンティブで消費者を引き寄せるなんて手法は、いまとなっては大抵のサービス・サイトや企業が実行している。したがって、彼が旧来の「土足マーケティング」と呼んだプッシュ・コンテンツやダイレクト・メールと同じく、我々の周りにはしょーもないプレゼント・キャンペーンが山のようにある。やれポイントをいくら、あるいはゲーム内の通貨をこれだけあげるだの、それとも掃いて捨てるほどいる「アイドル」にレスがもらえるとか、とっくに我々はスパム・メールだけでなくインセンティブを掲げるキャンペーンにも囲まれている。よって、そこでも競争があるため、資本力の問題になっていることも多い(全てが本当なのかどうかはともかく、Twitter で100万円をやるとツイートしている人々の数を見よ)。つまり、1999年の当時でもインセンティブによる消費者の誘引という手法はあったと思われるし、実際にあっただろうと思う。そういう引手数多の中でゴーディンが実績を上げたのは、要するに Yahoo! の資本力によるところが大きいのではあるまいか。

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