Scribble at 2022-07-09 12:52:19 Last modified: 2022-07-10 12:35:24

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より現実的なのは、最低限の対策として、緊急通報のみ受け入れるというものだろう。こちらの方が、技術的なハードルは低い。既にSIMカードなしで、他社のネットワークにつないで緊急通報する仕組みが標準化されているからだ。SIMカードを挿していないスマートフォンに、「緊急通報のみ」と表示されているのを見たことがある人はいるかもしれない。米国や欧州などでは、この機能を利用し、緊急通報を発信することが可能だ。

通信障害の再発防止には限界も 緊急時の「ローミング」と「SIMなし発信」は実現するか

先週の au/KDDI で発生した通信障害は、もちろん記事が指摘するとおり今後も別の原因で別の通信サービスに発生する可能性があるため、利用者には「通信障害」という結果として現れる事象をゼロにすることはできないだろう。今後も新しい通信規格なり通信設備が出てきて、置き換わっていくという前提に立てば、新しいものへ置き換えるときのトラブルも考えたらなおさらだ。軍事用途ですら万全とは限らないのが常であるし、民生サービスに〈完全〉とか〈絶対〉とか、そんな営業フレーズや三流会社の経営会議とか朝礼で語られる安っぽい言葉に対応する性能など、最初から商業サービスにありはしない。

とはいえ、いくらリスクがあると分かったうえで使うとは言っても、いざ起きた時に何も対策がないのでは困るし、その対策が一般利用者にとって過大な費用や労力を要求するようでは困る。よって、上記の記事でも最後に解説されているように、せめて SIM カードが刺さっていようといまいと緊急通報だけはあらゆる端末で常にかけられるような仕組みの実装が望ましいだろう。

よく、複数のキャリアを契約しておくなどと言う人もいるが、あまり現実的とは思えない。なぜなら、

(1) 受:docomo、架:docomo

(2) 受:docomo、架:au

(3) 受:docomo、架:softbank

(4) 受:au、架:docomo

(5) 受:au、架:au

(6) 受:au、架:softbank

(7) 受:softbank、架:docomo

(8) 受:softbank、架:au

(9) 受:softbank、架:softbank

単純に国内のキャリアが3つしかないとすれば(いわゆる「格安スマホ」は、どのみち3大キャリアの回線を借りているだけだ)、受電する人が利用するキャリアと架電する人が利用するキャリアとで、上記のような組み合わせがありうる。現実には、家族割のようなサービスを利用して安く通話するために、家族なら同じキャリアで契約している事例が大半だろうとは思う。今回の au/KDDI の障害で、(2), (4), (5), (6), (8) の通話ができなくなった。もし或る会社が au の IP 電話などを固定回線で使っているだけだったら、もちろんどこからも受電できなくなり、電話は一切使えなくなった筈である。では、会社ならリスク対策として他のキャリアを利用してバックアップに回線を用意できる予算を確保できるかもしれないので、オフィス電話を別のキャリアで契約して同時通話数を複数確保すれば、電話を受けているあいだに他の相手と営業電話するといったことも可能になる。ただし、それでも相手が au だと相手がそもそも電話をかけられないし、相手にも電話をかけられないのは同じである。

よって、相手が通信障害の起きているキャリアと契約しているのかどうかなんて知るすべはないし、知る必要も責任も企業にはないのだから、こういうことが起きた場合にやるべきことは〈別の連絡手段〉を確保しておくことであろう。コーポレート・サイトにメール・アドレスを掲載したり、問い合わせフォームを追加するのでもいい(Google Forms のような第三者の提供するサービスを一時的に利用するリンクを掲載してもいい)。

そして、今回の au/KDDI の障害で記者会見に出た au の経営陣が質問されたり突っ込まれていたのは、通話しかしない高齢者や僻地の人々や漁船などに乗っている人たちをどうフォローするかという問題であった。特に高齢者は、ふだんから自治体の広報などもウェブサイトを見たりせず、新聞の折り込みとして入っている『北区ひろば』といった広報誌しか見ていない可能性がある。よって、「公式サイトでお知らせしています」などと発表したところで、そのサイトへアクセスする手段がなかったりするのだ。しかも、その発表すら SNS だけで公表しているなどという愚かなことをしてしまうケースがある。したがって、従来のテレビやラジオといったメディアでのテロップなどを活用するために予算を投じることも望ましいが、一般の企業にそんな予算はないし、メディアでいちいちお知らせを特別に扱ってもらえるような重要性など大半の企業にはない。

そういう場合は、はっきり言えばあきらめることである。そして、事態が収束した後に連絡できるようになれば、相手に状況を説明するほかにないだろう。

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