Scribble at 2022-10-18 09:02:46 Last modified: 2022-10-18 14:28:16

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ただいま Springer Nature がハロウィーンのセールとして一部の書籍を4割引きで販売している。とは言え、もともとが数万円の書籍ばかりであるから、4割引きでも5,000円以上はするタイトルが殆どだ。(なお、こういう一過性のキャンペーンやイベントのページは URL が短期間で無効となるため、もうこういうページにリンクはしない。こんなページを該当するサイトですぐに見つけられないなら、findability の劣悪さはサイトの設計・運営側に責任があり、リンクしない僕の側に責任はない。)

ここ数年はシュプリンガーから夥しい数のタイトルがひっきりなしに続々と公刊されていて、まともな proofreading なり review が行われているのかどうか疑わしい。もちろん学術雑誌でもなければ、著者本人が同僚なり同志に原稿へ目を通してもらうだけにとどまる場合も多く、海外でも単行本の多くは Wikipedia で言う「独自研究」として出版される。ゆえに、もともと昔からどこの出版社であろうと、書籍というのはジャンルを問わず常に査読スタッフや査読を依頼する同じ分野の研究者に不足しているわけだが、事業として出版を止めるわけにもいかない。

よって、胡散臭い内容で査読も編集も不足した著作物が続々と世に現れることとなる。書籍の体裁として整えるだけなら、いまや Amazon で洋書を購入したことがある方ならご存じのとおり、小売店が印刷・製本してしまえるくらい自動化が進んでおり、制作コストも安くなってきている。おまけに入稿も大半がデジタル・データであり、版下として直に使えるフォーマットを用意して著者に入稿を依頼している出版社も多いだろう。よって、編集者の役割は大半が紙面の美的調整にとどまり、校正や著作権侵害の調査などは機械的にできる範囲の作業に留まる(DTP アプリケーションの校正機能で対応できる範囲に任せたり、画像を検索して一致する結果がなければ著作権の侵害はないと見做すなど)。よって、限りなく自費出版に近い内容へ Springer Nature のブランドが付くのだから、研究者が発行を依頼するのも無理はない。でも、これではいわゆる predatory journals と何が違うのか。

また、Springer Nature の配下になった Apress という IT 関連の出版社からも相当な頻度でタイトルが出ているけれど、アマゾンなどで(まともな)レビューを眺めている限りでは毀誉褒貶が激しくなっている。プロダクトとしての品質が編集側にではなく、まるっきり入稿する著者の見識と文書校正・文章構成のスキルに依存してしまっている感があり、これはいかにも粗製乱造の誹りを免れまい。ただ、残念なことに、それでも Apress から出ているタイトルが IT 関連の著作物では業界をリードしており、競合する O'Reilly, Wiley, Manning といった出版社から出ているタイトルも品質は似たようなものである。特に IT 関連の著作物は賞味期限という避け難い制約があるため、執筆や推敲に長い時間をかけられない。たいていは著者が原稿を書きながら査読者が1章ごとにレビューしたり、あるいは普及しつつある手法の一つとして、下書きを GitHub などでオープンにしてコメントを集めることもある(ちなみに、僕はあまり感心しない。そんな暇潰しに読む人間だけの感想をピア・レビューと同じ扱いにするのは怠慢としか言いようがないからだ)。

なんにしても、セールですら平均して5,000円を超える(一般的なサラリーマンが1ヵ月に支出する書籍購入費3,500円ていどを超える。ということは、サラリーマンが自分の小遣いを何か月もわざわざ貯金しないと買えないわけである)書籍を当たり前のように続々と出版されても、この不景気なり可処分所得が全く増えない状況では売り上げなど全く増えないだろう。実際、ここ20年のあいだに K&R とまでは言わなくても世界中で話題になるほど売れた IT 関連の本なんて一冊もない(ブロックチェインやビッグデータ関連のコンサルや技術ライターが書いたビラのような通俗本など数えるに値しない)。もはや IT 系の出版物に「古典」なんて存在しないのだ。次々と読み捨てるだけの新書みたいな内容の著作物や、煎じ詰めれば公式サイトのドキュメントを印刷しただけのような本を5,000円以上も出して買うわけがない。

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