Scribble at 2022-09-01 10:13:17 Last modified: 2022-09-01 10:20:54
昨日から購読し始めた The New Inquiry で、最初に読んだ記事がこれだ。確かに主旨としては納得できる。ここ5年くらいにわたって、日本でもベーシック・インカムの話題が散発的に取り上げられていて、おおむね視野の狭い小手先の財政とか税制とか福祉の話だけが飛び交っている。そして、そこではアメリカと同様にポピュリスト(と、彼らの結果平等というアイデアに釣られた未熟な左翼)が、上記の記事で言及されているフランクファートがお気に入りの言葉を使うなら「クソ話(bullshit)」を繰り広げているというわけだ。場合によっては、この議論に右から左まで色々なイデオロギーの人たちも加わる。
しかし、フランクファートや上の記事が指摘するように、現今のメディアで語られている UBI (universal basic income) にかかわる議論や提案の大半は、つまるところ金持ちが世界の実情を金で誤魔化そうとするイカサマにすぎない。UBI は、既にいろいろな試算が出ているように、とりわけ先進国のような国々で政策として導入しようと思えばできる。実は素人が思っているほど財政として無茶なアイデアではない。そして、UBI の導入には多くの保守派やリバタリアンが抵抗しているという話を多くの左翼やリベラルが取り上げるというのが、お決まりの構図だ。しかし、この構図はでたらめである。
簡単な理屈だが、UBI が導入されても GAFA や製薬会社や兵器会社の経営陣や株主、それから世界中の石油王から政治家、資産家、いやそれどころかギャングのボスに至るまで、従来の金持ちは大金持ちのままである。よって、彼らが〈何をしてそこまでの資産を築き維持しているのか〉という問題は放置したまま、その事情によって被害を被り、不平等の影響を被っているとされる多くの貧困層が、自動的に豊かになってしまう。すると、彼らは貧しいという理由で抱いていた世の中の仕組みへの不満を無くしてしまうだろう。UBI、とりわけ世界中のセレブが主導しているキャンペーンの趣旨は、こういうところにある。一昔前に流行した、「トリクル・ダウン経済学」と殆ど同じカラクリの、貧困層を救う猿芝居というわけだ。
そして、これを篤志家の善行だと拍手喝采してはお零れのサポート事業で仕事がもらえるというスケベ根性で群がってくる、広告代理店から福祉産業にいたる多くの業界で、自分たちが何をやっているのか分からずにやる、くるくるパーの仕事やサービスができあがる。あるいはネタにマジレスとしかいいようがない馬鹿な社会学者とかが、「ビル・ゲイツの思想」だの「リチャード・ブランソンの道徳概念」みたいな論文を『ソシオロゴス』とか『思想』とか『現代思想』とかに書き始めるというわけだ。
こういう馬鹿どもの相手をまじめにしてはいけない。