Scribble at 2022-02-08 14:45:56 Last modified: 2022-02-08 14:55:12

ホーリズムは、我々の文明なり知識や知恵という総体(必ずしも「体系的」である保証はない)の一部として理論を含んでいる。そして、その理論は他の知識とか知恵を根拠とする法則とか規則性とか一定の秩序ないし形式を言明する。しかし、それらの全てが物理学で言う法則だとか数学で言う定理としてコミットできるかどうかは、確たる根拠がない場合もある。そして、そういう実情(法則や定理としてコミットできるほどの強い根拠があるかどうか不明であること)が歴史によって何百年も先の事実で明らかになったりすることもあれば、科学者のコミュニティで共有されただけの定義とか決まり事で明らかとなる場合すらある。

その一つの事例が、冥王星である。冥王星は太陽系の「惑星」として1930年に Clyde William Tombaugh が発見した。そして、何年かに渡って「太陽系の惑星は9個ある」という文が法則を表す言明であるかのように扱われていたこともある。既に多くの方がご存じのとおり、2006年に国際天文学連合が「惑星」の定義を変更したことにより、冥王星はその意味での「惑星」ではなくなって、「太陽系の惑星は9個ある」という文は、そのままでは偽と判定されるようになった。もちろん、「太陽系の惑星数」という名詞節に対応してきた9という数値(「数字」としてはなんだっていい。二進法で表記しても問題ない)が8という数値に何らかの法則によって変化したわけでもなければ、9という数値として扱われてきた何事かが可変の性質をもつ別の何事かへと変化したり、そのうえで9という数値に対応してきた何かが8へと変化したのでもない。太陽系の公転軌道上に冥王星と呼ばれる天体が存在していて運動しているという事実には、何の変化もないのである。したがって、「太陽系の惑星は9個ある」という言明は自然法則でもなんでもない。

加えて、「冥王星」という言葉で或る天体を呼んでいたのが、「新冥王星」とか「冥王星2.0」などと別の名前で呼ぶようになったわけでもない。よって、冥王星〈という天体〉には何も起きていないのだ。冥王星に何か具体的な変化が起きるとすれば、それは冥王星が太陽系で太陽を周回する天体として生成されたときと、遠い未来に太陽系とともに消滅するとき、あるいは一つの可能性として別の天体が衝突して冥王星が消滅してしまったり、あるいは太陽系上の公転周期軌道から外れてしまうときだろう。冥王星に関わる事実として何か際立った変化があるとすれば、そのときくらいのものである。そして、そういう場合においても法則とまで言明できるような斉一的と言ってもいい規則性が冥王星に保持されるわけでもない。しかしながら、それは冥王星という天体が消滅するからでもなければ、まだ宇宙に生成されていなかったからでもないのであり、具体的にあるかどうかが自然法則の問題なのではない。実際、あらゆる面や点において歪みが完全に無いと言える「真球」は、工学的に高い精度で作り出すことができても、論理的には自然界に存在しえないものである。しかし、それでもわれわれは歪みのない球を仮定して数学ができる。それと同じで、存在していない惑星を仮に想定して、太陽系の他の惑星の公転軌道がどのように変化するかを議論できる。そこで使えるのが、自然法則である。

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