Scribble at 2020-09-06 08:46:41 Last modified: 2020-09-06 08:57:55

阪急百貨店の店内掲示は「ソーシャル・ディスタンシング」と表記している。ただし、「ソーシャル・ディスタンシング『を保ってください』」と書かれていて、文法としてはともかく啓発メッセージとしては微妙だ。必ずしも間違っているというわけではない。なぜなら、「保つ」のが距離ではなくスタンスや姿勢という意味に解すると、筋は通るからだ。しかし、そこまで正確に脈絡を理解してもらうのは難しいだろう。このようなメッセージは、誤解が少なくて即座に理解できるように表記するのが理想なので、見ている人に「ああ、これはこういう脈絡ではこういう意味にとれるな」などと《解釈》させてはいけない。良い例かどうかはともかく、"Right Face!" といった軍属の使う表現のようなものである必要があろう。

つまりは、「ソーシャル・ディスタンシング」という表現の是非を語る以前の話として、こういうことを表記して店内へ入る人々に何をしてほしいかが、日本語話者に訴えるなら日本語としてまず簡潔に表現できていなければいけない。確かに、「いま話題になっているアレをしてね」というニュアンスを出さないと、単に「お互いに距離を取りましょう」と書くだけでは正当性がなく説得力に欠ける場合もあろう。多くの凡人は、Jap joke に登場するカメラをぶら下げた出っ歯の男たちのように、「世間で騒がれているアレ」であり、「他の人たちもやっている」からこそ従う気にもなるからだ。それであれば、そういう同調圧力に弱い人々にも効果的な手法としては、「(ソーシャル・ディスタンシング)」と小さく括弧書きでもしておけばいいだろう。目に入るだけで「アレのこと」として従おうとする効果が生まれる、ナッジになる可能性もある。

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