Scribble at 2022-10-27 09:40:16 Last modified: unmodified

いまでは既に減退しているとは思うのだが、僕は長らく友達から「変な言葉遣いだ」と言われつつ、大阪弁と東京弁(標準語ではない)とが混じった話し方をしていた。これは、岩手で生まれ育ってから目黒区にある寺の養女となった母親が大阪弁を嫌って東京弁を使わせたためである。言語学者であればご承知のとおり、実は東京弁と岩手の気仙弁(母親はもともと気仙地方である住田町の生まれである)には鼻濁音の使い方に独特のルールがあって・・・というか、そもそも「ケセン語」という分類をする人もいるくらいなのだが、ちょうど両方の由来をもつ地域で生まれ育った母親に発音を教えられたせいか、鼻濁音の使い方が自分とは違う話し方に違和感を覚えることがある。

鼻濁音というのは、簡単に言うと「鼻の奥と喉あたりで発する音」のことだ。世代にもよるが、いちばんわかりやすい例は『サザエさん』の次回予告で最後にサザエさんがお菓子を喉につまらせて発する「ンッガッグッグ」というやつである(調べてみると、この発音は子供がまねをするからといった理由で、実は1991年(30年以上も前)に放送されなくなっていたようだが、どうも老人は昔の記憶が強く残っていて、いまだにサザエさんが「ンッガッグッグ」とやっているように思ってしまう。いまだと、ワカメちゃんが BTS の曲をスマホで聴いてたり、カツオ君が男性用の口紅を使ってるかもしれないのに・・・いや、そんな適当な想像する前にいまやってる番組を観ろよって話だが)。近畿から西の地方では全くない発音とされている。また、鼻濁音とそうでない発音の違いとして紹介される事例の一つは、「十五日(じゅうごにち)」の「ご」と「十五夜(じゅうごや)」の「ご」である。鼻濁音を使う地域では、後者の「ご」は鼻濁音で発せられることが多い。また、落語のファンであれば、上方落語と江戸落語とを聞いていて鼻濁音の違いに気づくことも多いだろう。

ということもあって、目黒生まれを自称している割には、話している発音が東京弁でもなかったりするので、東京で働いていたときですら、大阪弁で話すことを注意深く避けていても、周りから「変わってる」と言われたりしていたわけである。たぶん、「地図」を「ツヅ」とか言ったりしていたのかもしれない。そして、とりわけケセン語で顕著な鼻濁音がガ行の発音だとされていて、わざわざケセン語の鼻濁音を表すのに「カ」の右肩に濁音を表す二つの点ではなく、半濁音を表す丸を付けた文字(カ゚、キ゚、ク゚、ケ゚、コ゚)を使ったりする。ちなみに、母親に連れられて初めて岩手に行ったとき、従妹から「あべ」と言われて意味が分からず、「行こう」という意味だと分かって唖然としたエピソードをいまでも覚えている。なので、僕は方言としてのケセン語は使えないのだが、発音については母親を通して何らかの影響があるのだろう。

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