Scribble at 2022-10-27 11:11:09 Last modified: 2022-10-27 13:38:45

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Paratroop (1979)

もう10年以上も前になるが、久しぶりに「ウォーゲーム」をやろうと思い立って、ちょうどアラブとイスラエルが対立してきた歴史について調べていたところだったので、中東戦争の舞台をテーマにしたウォーゲームを新しく購入したりしていたし、ウォーゲームについてのサイトを構想して suez73.org といったドメインまで取っていた。もう現在は、そこまでは熱意はないにしても、幾つかのウォーゲームは自宅と実家に残してあり、たまに取り出しては眺めている。

ウォーゲームの典型的な作品(商品)として、上記の『奇襲空挺部隊』を紹介しておく。これは今では「伝説的」とも言える数々の名作を送り出した SPI (Simulations Publication, Inc.) というアメリカのゲーム・メーカーが1979年に発売したゲームだ。もともとはウォーゲーム関連の Strategy&Tactics という雑誌の Issue 77 (1979) に収録されたミニ・ゲームであった。上でリンクしているページでもわかるように、単体のゲームとして発売された箱のカバーと雑誌の表紙は同じである。

箱の中には、ゲームの歴史的な背景とかルールを記載してあるルール・ブックが入っていて、それから三つに区切られた地図が入っていて、「エバン・エマール」、「クレタ」、そして「レッドデビルズ」という三つのシナリオが設定されたゲームをプレイできる。そして、それぞれのシナリオ(ゲーム)で使う「ユニット」と呼ばれる駒とか、作戦行動で起きる戦闘とか気象の変化とか危険な地形の横断といった色々な出来事を或るていどの幅で異なる結果として処理するための表やサイコロが入っている。ゲームによってはサイコロが別売りになっていることもある(ゲームを買うたびにサイコロが増えても無意味だと考える人がいるのだろう)。また、雑誌に収録されるゲームではユニットを入れる容器がないため、写真に映っているようなプラ・ケースがゲームを販売している店で販売されていることもある。なお、僕が所持しているのはホビージャパンという日本の会社がメーカーからライセンスを受けて輸入・販売している商品なので、翻訳版のルール・ブックが同梱されている(写っていないが原文のルール・ブックも同梱されている)。

僕はウォーゲームをよくやっていた高校時代から不見識だと思っていたのだが、多くのゲームの翻訳版のルール・ブックでは historical preliminaries(歴史的な序文)が訳出されておらず、本来の「歴史的事実のシミュレーション」というアプローチに対する配慮が欠けていると言わざるをえない。しばしば、そういう配慮の欠落は、ウォーゲームのファンが歴史に関心のないただのミリタリーオタクだと思われたり、戦争を「ゲーム」として弄ぶサイコパスや国家官僚的なパターナリズムの信奉者、あるいは物事を外交的な高みから支配しているかのような全能感を求める歪んだ人間だと思われてしまう原因の一つだと思う。

実際、これだけゲーム理論や行動経済学の理屈(あるいはウィトゲンシュタインの「言語ゲーム」というアイデアでもいいが)が持て囃されているというのに、いまでも多くの人が「ゲーム」という言葉を気楽で退廃的な遊び事だと見做す根強い錯覚や偏見を持ち続けていて、しかもその偏見によってウォーゲームのプレイヤーや業界を道徳的に非難できるという、歪んだ正義感を抱いていることに何の自覚もないという悲惨な状況が続いているのではあるまいか。そういう理解から、やはりウォーゲームについては、単なるノスタルジーだけではなく、現在もウォーゲームは色々なところで現に利用されているのだから(現実の軍隊でも使われるし、企業経営など多角的な思考を訓練する学科や研修機関などでも採用されている)、何らかの丁寧な解説を公開しておく必要があると感じる。

なお Twitter では、ウォーゲームに関わる人物として、プレイヤーのコミュニティで「パン屋」と呼ばれている山崎雅弘氏が知られている。けれど、彼は既に特定のイデオロギーの論客となってしまっていて、彼が仕事にしているウォーゲームのデザインについては殆ど関心を持たれていないように見える。確かに、ミリタリー関連の研究者や著述家の多くは、必然性などないのに保守どころか右翼が多く(気の毒に、彼らの大半は自分たちが「リアリスト」だと言いたがるのだが、それは産経新聞が自社の記事を「正論」と言っているのと同じ程度の bullshit であり自己欺瞞だ)、彼のようなリベラルもしくは左翼として扱われるような発言をする人は珍しいので、Twitter の「活動家」どもやマスコミとしては彼に(発言内容の是非や質はともかく)そういう意味での商品価値があると思っているのだろう。

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