Scribble at 2022-03-01 10:44:48 Last modified: 2022-03-04 09:05:45

いわゆる「古代ローマ」(神聖ローマ帝国などと混同されやすい)について書かれた、それなりの分量でまとまった通史というのは、実は殆どない。もちろん、僕が言っているのは歴史書であり、塩野七生が書いた「読み物」なんて最初から眼中にない。あれを使ってローマ史を語っている人々というのは、おおよそ大別すると歴史に無知な人か、あるいは分かっていてわざと流行ものに言及しているオタクのどちらかだ。大学で西洋史を専門に勉強している者が手に取って読む暇などない筈である(小説を読む暇があるなら、史学科の学生たるものラテン語の勉強でもするべきであろう)。

そういうわけで、僕ら史学科の学生でもない者が古代ローマについて十分な量の通史を日本語で書かれた本から得ようと思えば、恐らく現在は二つしか選択の余地がない。一つは、メアリー・ビアードの『SPQR ローマ帝国史』であり、もう一つはもちろんエドワード・ギボンの『ローマ帝国衰亡史』だ(気の毒だが、モムゼンは高すぎるので除外する)。後者については、図解本だとか抜粋訳(日本語で勝手に要約したわけではなく、あくまでも Penguin Classics の要約版を元にしているが)だとかイージーで愚劣な関連本が数多く出回っているが(そういやハラリの著作やピケティの著作についてもバカみたいな関連本が出るようになった。こういう商売をするから、出版社というのは信用が低下するのになぁ。自滅的なことをやるよね。バカは)、しょせんはウェブによくある「まとめ記事」と大同小異のクズである。そもそもギボンの著作ですら、1,000年以上の歴史を文庫本にして10冊で読める分量にまとめてあるのだと弁えるべきであろう。たとえば、何年か後にコロナ禍の経緯をまとめたような本が出てくるのであろうが、たかだか3年くらいのあいだに起きたことを何百ページもの単行本にする人々が続々と現れるに違いない。そういう密度に比べたら、ギボンの著作ですら「簡潔に整理した著作」であると言えなくもない。

しかしなんにせよ、古代のローマについて足掛かりとなりそうな著作がきわめて少ないという事実は、敢えて強調しておきたい。ほかに、VSI の翻訳もあるし、講談社の「興亡の世界史」としてローマ史も取り上げられているが、やはり分量としては不十分だ。

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