Scribble at 2026-02-17 16:45:35 Last modified: unmodified

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Many companies create private governance—collectively designed arrangements such as ecological or social standards that guide corporate conduct. Yet explanations for why firms engage in such governance creation remain fragmented across a wide range of studies and disciplines. This article synthesizes existing research into a comprehensive framework that integrates macro-level institutional conditions with meso- and micro-level drivers and barriers, thereby clarifying the antecedents of corporate engagement in the creation of private governance. We also develop a research agenda addressing these gaps within debates on political corporate social responsibility (PCSR). While PCSR articulates normative ideals of legitimate corporate engagement, empirical findings show governance creation often serves instrumental reasons. Our framework clarifies why and under what conditions firms engage in the creation of private governance.

Why Do Companies Engage in the Creation of Private Governance? A Systematic Literature Review and Research Agenda

企業が「ルール」を自ら設計し、運用する。この現象をプライベート・ガバナンス(Private governance)と呼ぶが、その実像は、公共への献身というよりは、生存戦略としての「擬態」に近い。Benedikt D. S. Kapteina らの論文は、30年にわたる膨大な先行研究をメタ分析し、企業がなぜ「ルール・テイカー(Norm-taker)」から「ルール・メイカー(Norm-maker)」へと変貌を遂げているのかを浮き彫りにしている 。しかし、そこで記述されているのは、道徳という仮面を被った、冷徹で精緻な計算の集積である。

「政治的CSR(Political CSR)」という理論枠組みは、グローバル化によって国家の規制が及ばなくなった「ガバナンスの空白(Governance gaps)」を埋める存在として企業を捉え、その行動に道徳的な正当性を与えようとする 。しかし、この論文が冷酷に突きつけるのは、実証データが示す「道具的動機(Instrumental reasons)」の圧倒的な支配だ 。

規制の先取りと骨抜き: 企業が自主ルールを創設するのは、それが正しいからではない 。むしろ、将来的な公的規制の介入を未然に防ぎ(Preemption)、自分たちの活動を制限しない程度の「緩いルール」を自ら設計することで、統治の主導権を確保するためである 。

戦略的利益の追求: 評判(Reputation)の保護やリスクの外部化、さらには先行者利益の獲得といった経済的合理性が、ガバナンス創出の主要なエンジンとして機能している 。

道徳の不在: 論文の分析によれば、道徳的責任や人権への配慮といった動機は、せいぜい「二次的な正当化のナラティブ」として使われるに過ぎず、意思決定の本質的なトリガーにはなっていない 。

私たちが組織の深部で目撃する「拝承」のような奇妙な社内用語や、ブラックボックス化した「一子相伝のExcelマクロ」は、この論文が指摘する「象徴的な関与(Symbolic implementation)」のミクロな発現である。

実態と形式の分離(デカップリング): 論文は、ガバナンスが組織の実際のルーチンに浸透せず、単なる「外部向けの看板」として機能するリスクを強調している 。これは、大企業が不合理な慣行を「伝統」として維持し、実質的な対話を拒絶する「大企業病」の構造と完全に一致する 。

情報の囲い込みと権力の維持: 独自のルールや複雑な運用を継承させる行為は、外部(あるいは他部署)からの干渉を拒む「防壁」として機能する 。それは、論文が指摘する「戦略的差別化」が、組織の内部で歪んだ形で結実し、個人の地位を守るための私的な支配構造に転落した姿である 。

結局のところ、プライベート・ガバナンスとは、外部からの批判をかわし、内部の権力を固定化するための「隠蔽の装置」として機能しやすい 。論文が認める通り、企業主導のルール作りはしばしば民主的なプロセスを迂回し、選ばれていないアクターへと政治的権限を移転させる結果を招く 。

この論文が描く「企業が自らルールを作る世界」は、一見すると進化のようだが、その実態は説明責任(Accountability)からの逃走を制度化したものに過ぎない 。私たちが向き合っているのは、合理性の名の下に構築された「打算の系譜」であり、そのルールが何を守るために、あるいは何を「隠す」ために設計されたのかを、私たちは常に解剖し続けなければならない。

この論文の著者たちは、結局のところ「企業の道徳的な関与には裏付けがない」という不都合な真実を、127本もの論文という研究を積み上げることで間接的に証明してしまったとも言える。

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