Scribble at 2022-03-30 16:24:48 Last modified: 2022-03-30 16:30:46

前から何度も書いている話題だが、ドメインの取得・管理業務は、もう事業継続性がないと思う。要するに事業としては将来性が全く見込めないのである。今後、「インターネット2」と呼ばれる新プロトコルや通信規格の回線網が普及するとしても、そこで情報を公開したりやり取りするにあたって、「ドメイン文字列」なるものを個人や企業がわざわざコストをかけて取得し維持する便益というものが無いからだ。いや、無いと言うよりも寧ろ、現在の市場規模から増えると推測できる理由が何もないということである。

いま僕は、公表できる範囲で言えば markupdancing.net と philsci.info という二つのドメインを契約している。「契約している」という表現に留めていて、「持っている」などと言わない理由を言っておくと、これは土地などと同じ話だが、自分自身で完全にどうとでも使えるという意味で、土地やドメインを「所有」などできないからだ。土地ないし個人の権利なんて、しょせん外国が侵略してきたり、あるいは区画整理などで国に強制執行されたらどうしようもない。もともと個人の権利なんてものは、保障されるとは言っても限度がある。それと同じで、ドメインなんてものは ICANN という団体がレジストラなどの下位組織に管理権限を委譲し、そこから更に代理店が販売しているが、結局は DNS というデータベースのネットワークが多くの他人がかかわる労役で維持されているという前提がなければ、一人で「俺はこのドメインを持っている!」などと高らかに叫んだところで無意味である。国がなくなれば土地の所有権なんて消失するのと同じで、インターネットという回線網がなければドメインなど単なるテキスト情報でしかない。

では、いま現在のインターネットという回線網で使われているドメインが、たとえば次世代の回線網でも同じようにネットワーク上のリソースへアクセスするための文字列情報として使い続けられるとしよう。僕はその保証すらないと思っているのだが(だって大半の人にドメインなんて今でも必要ないし)、使い続けられるからといって、新しくドメインをたくさん取得しようとか、長く契約しようとか、何らかの理由でドメインの管理会社へお金を支払おうとする人や企業が増えるだろうか。そんなことは殆どないと思う。なぜなら、通信規格が新しくなることと、ドメインを新しく取得することには何の関係もないからだ。通信速度が向上したり安定性が向上したり通信データが安全に送出されるようになったからといって、ドメインを増やす理由にはならないだろう。これまでドメインを続々と取得してこなかった企業や人は、その必要がなかったから取得していなかっただけであり、通信速度が遅いからでも通信経路が安全ではなかったからドメインを取得しなかったわけでもない。そんなことは関係ないのである。すると、逆にインターネット2だろうと3だろうと8だろうと、通信の形式とかパフォーマンスがどうなろうと、それとドメインの要不要とは何の関係もない筈である。通信が速くなったり安全になったからというだけで、僕が markupdancing.net だけでなく、markupdancing.com や markupdancing2.net や markupdancing.osaka などのドメインを取ろうとするか? まさか。何の必要があって?

つまり、これから通信回線網がどうなろうと、ドメインがどんどん売れたり長期契約する理由にはならないのである。しかも、いったんドメインを取得した人々も、よく知られるように15年くらい前の「ブログ・ブーム」が終わってしまった今日では、いちいち独自ドメインやレンタル・サーバを契約して自分のサイトを公開し維持することに特別な効用など見い出せないし、実際にそんな効用はない。少なくとも、というかもともと、独自ドメインで〈優れた〉コンテンツを公表して維持できるだけの素養や知識や実績があって、それから承認欲求などという愚劣なスケベ根性など最初からない、「マニア」(オタクではなく)だとか、僕らのような学術研究者でもない限り、独自ドメインでサイトを運営する必要もなければ意味もないのだ。

そして、実は同じことが企業についても言える。既製品を単に売り捌いているだけの小売店に、独自ドメインや、あるいはオリジナルのデザインで飾ったコーポレート・サイトなんているものか。問屋や市場から買ってきただけのものを右から左へ売り捌くだけの事業に、オンラインで広報するようなことなど何もないはずなのに、あたかも「コンテンツ」があるかのごとくウェブの制作会社や IT コンサルに騙されていたのが、この20年の歴史である。そういう事業者にドメインなどいらないのだから、メール・アドレスが @google.co.jp だろうと @outlook.jp だろうと、そんなことはどうでもいいのである。もちろん、そういう事業者が独自ドメインのメール・アカウントでやりとりしている弊社のような企業と取引なんて最初からしないだろう。でも勘違いされると困るのだが、これは事業者どうしの業容とか業種による差別とか階級とか格の話ではない。商店街の金物屋さんが独自ドメインのメール・アドレスを使っていないと、みなさんは鍋を買いに行くのに不安を感じますかという話でしかない。独自ドメインを使うかどうかは、別にその会社や事業の社会的な重要性とか格と必ずしも関連するわけではないのだ。

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