Scribble at 2021-04-20 17:41:22 Last modified: 2021-04-20 17:49:47

何度か書いたことだが、僕は IT ありき、ネットありきのベンチャーは駄目だと思っている。そういう考えが駄目な理由は、それこそ成功している IT ベンチャーやネットベンチャーのビジネス・モデル(ビジネス・メソッド)のコンセプトを正しく理解すれば分かることだ。アマゾンが成功したのは、ジェフ・ベゾスがオンライン書店を作ろうと思ったからではない。そんなことはバカでもできる。実際にも、同じ頃にオンラインの書店なり EC サイトを立ち上げた事例もあったし、それどころかアマゾンに先んじてオンラインのモールを作った会社すらあった。それでもアマゾンが成長して巨大な複合企業となり得たのは、IT つまりは通信を自分たちのビジネスの手段として正しく利用したからである。そういう意味では、彼らも IT のユーザ企業だったと言える。

よく軽率な経済評論が GAFA や Uber、Airbnb といった企業の成功した理由を「ITの活用」にあったなどと説明するのは完全な錯覚であり、そういう文章を書く記者どころかアナリストや学者が、起業とか商品開発とかマーケティングや経営について全く理解していない証拠である。これらの会社が新興のプレイヤーとして成功した最大の理由は、それこそ自分たちが有利にプレイヤーとして振る舞える市場(の特性)を、顧客にとっても有利に作り上げたからだ。関連するステークホルダーまでを巻き込んで「三方良し」とまでは行かなくとも、収益を確保しつつ顧客にもありがたいサービスを導入すれば有利にビジネスを展開できる。その最も典型的な手法が、ネットを使って流通の仕組みなりプラットフォームを従来の仕組みと置き換えてしまうことだ。これを「ITの活用」としてしか分析できない経営学者や経済アナリストは、はっきり言って学部生レベルでしかない無能だろう。

アパレル業界に置き換えて考えてみれば、原料、生地生産、デザイン、縫製、卸、小売といった流れの一部を一社に集約したり、通信を使って全国から注文を受けるようにするといったていどのことなら、誰でも思いつくしやっている。広告業界なら、出稿、ディレクション、制作、入稿といった流れの一部や多くのプロセスを一社でまかなうという発想も、考えるだけなら簡単だし、実際に制作もやる広告代理店やネット広告の実務も担っているウェブ制作会社などはたくさんある。しかし、これらの企業が Google やアマゾンになれないのは、要するにプラットフォームを抑えていないからである。どれだけデザイン力があって広告を効果的に展開するテクニックを持っていても、Yahoo! JAPAN や Google という場所を借りているだけの立場であれば成長には限界があるし、サービス展開もプラットフォームを提供している事業者には筒抜けの状態となる。もし、それなりに有能な社員がいて、オンライン・ゲームの中で独自にルールを作って勝手にイベントを開いてしまうような才能があったとしても、それはそれだけの話でしかなく、少しは有名な YouTuber と同じ程度の力しか持てないだろう。

よって、IT ベンチャーや大手のネット・ベンチャーがもつ競争力は(必ずしも起業した当初からあったわけでもないが)、プラットフォームを「活用」して流通や業態の新しいパターンを作り出したというだけにはとどまらないのであって、プラットフォームとなりうる仕様や規格そのものを起案してしまうことにあるのだ。2000年代以降というもの、インターネット通信で利用されている通信プロトコルの多くは、それらの巨大 IT ベンチャーやネット・ベンチャーが仕様を策定するワークグループに関わったり、そういうワークグループを作って、次世代の仕様を作ってきた。その多くは、もちろん理論的・技術的に優れたものであるからこそ、特定の事業者がかかわっていたとしても多くの人々に受け入れられてきたのである。しかし他方で、その仕様を受け入れて利用する事業者の一つとして、それらの会社が(少なくとも不利にならない)許容しうる実装を選択できるという利点が失われず、それらの企業のビジネスを後退させないという点がしっかり担保されているのも事実である。

余談になるが、OpenID という認証サービスのプラットフォームがどうして多くの IT ベンチャーに支持され、"decentralization" などというイカサマのフレーズが叫ばれたのか。いま、認証サービスの多くが GAFA のサービスで提供される機能として定着してしまい、エンド・ユーザには殆ど自覚されなくなっているのを見れば、10年以上も前から「OpenID を始めとする認証基盤は、大手 IT ベンチャーの寡占状態でしか提供されなくなる」と見通した僕の意見は正しかったと自負している。

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