Scribble at 2022-05-04 08:43:39 Last modified: 2022-05-04 09:09:22

もうそろそろみんな気付いている筈なのだが、5G なんて全く必要ない。これは明らかに通信キャリアのマッチ・ポンプだ。つまり 5G の通信インフラを普及させるために機器を交換したりメンテナンス体制を切り替えるコストがかかるので、その元手を消費者に負担してもらおうという話なのだが、そうすることで最初に利益を享受するのは通信キャリアであって、僕ら消費者ではないのだ。

実際、5G が「普及すれば」遠隔医療が可能になるなんて話が5年前から山ほど自称メディアとやらで宣伝されているが、いまだにどこの病院で導入されたのか全く話を聞かない(新型コロナに関連して実施されている遠隔の診療は単なるリモート会議の延長であり、5G どころか通信インフラの規格とは何の関係もない)。自宅では Wi-Fi で高速な通信環境を使う人が多いから、とりわけ外出したときに会社や訪問先や店で映像(ゲームは、実はプレイしている最中にパケットは大して使わないよう設計されている。Wi-Fi で通信するように推奨されているアップデートで大量のファイルをローカルへ保存し、プレイではそのファイルを使うからだ)を眺めている人は多いだろうが、4G でも途中で再生が止まるなんてことは殆どなかった筈だ。

寧ろ、ここ最近の YouTube のように映像を配信している運営元が、収益性の悪化を理由に経費削減でサーバや通信環境を劣悪にしたせいで、映像が乱れたり再生が途中で止まったりする不具合の方が多い。YouTube でも Premium という有償プランが始まって映像をダウンロードできるようになったが、いくらこっちが 900 Mbps 以上のスピードを出してる NURO を使っていても、ファイルの転送速度は最悪であり、試しにトライアルで動画をダウンロードしてみたところ 100 MB のわずか10分ていどのビットレートも低い映像をダウンロードするのに、所要時間が「2日」と出たこともある。つまり、30年前に僕らが黎明期のインターネット回線で使っていた「テレホーダイ」のダイアル・アップ通信で提供されていた転送量よりも遅い速度しか出ていないせいだ。

つまりは 5G になったところで、クライアント - サーバ(C/S)型のシステムとしてデータをネットワークでやりとりしている以上は、キャリアが中間で提供する通信を 4G から 5G に変更したところで劇的なことは起きない。そして、アメリカの医者が日本の患者を遠隔操作のロボットで手術するだのという、どこの病院も実現してもいないし、設備に投資するための計画すら立ててもいない世迷い事を餌にして(そもそも外国の医師が、研究など特例法で許容されている特別な目的でもない限り、日本に住んでいる患者を手術するのは医師法違反だ)、われわれの通信費を値上げして事実上の投資コストを先に確保しているにすぎない。

実際、スマートフォンの新機種も 5G に対応するものが続々と(と言う割に海外メーカーしか発売しなくなっているせいで、選択肢は少ないしスペックも似たようなものばかりでウンザリだが)出ている割に、それらは 4G にも対応する後方互換性を確保したままだ。なぜなら、まだ圧倒的多数のコンテンツは 4G の回線を基準にリリースされ運営されているし、それ以上のスペックが必要となる理由など差し当たって存在しないし、5G の回線が使えるエリアはまだ狭いからだ。

以前も書いたように、5G の回線となって帯域が太くなると契約者あたりのデータ量が確保されるので通信が止まったり遅くなったりしなくなるというが、それは有線のインターネット通信の話を無線の通信に置き換えているだけの非常識な仮説でしかない。現実には無線の中継局にどれほどの契約者が接続するかはわからないのであって、住宅街なら一斉に接続する数は大して変動しないかもしれないが、繁華街では場所や時間帯によって中継局に1,000台が一斉にアクセスすることだってある。いや、劇場や野球場など何万人が集まる場所でなくても、中継局そのものが少ない僻地や山間部や離島でキャンプや観光などの客が一斉にアクセスするだけで通信は遅くなったり不安定になる可能性もあろう。そういうことは 5G になろうと複数の契約者に回線を分割するという通信モデルを採用している限り、原理的になくなるわけがない問題なのだ。そして分割する世帯数が少なくて一斉に通信を使う人がいない環境では、YouTube の "480p" という品質(スマートフォンで動画を観るなら標準的な画質)なら何の問題もなく動画を再生できる。この品質の回線を提供するには、一つの中継機器で分割する世帯数を少なくして、個々の世帯で一定の帯域を確保できるようにする必要があるけれど、先ほども述べたように無線の場合は何台の端末がアクセスするのか(もちろん有線でも Wi-Fi でアクセスする端末は家庭内で増えていくから、予想がつかないという点では似たようなものだが)分からないため、品質を維持するには元の帯域を太くするか中継器という機材を増やすかのどちらかしかない。すると、機材を増やしていけばメンテナンスや交換するコストがかかるし検査する人件費もかかる。そのため、機材を増やさずに帯域だけ太くすれば、同じだけの世帯に分割したり、あるいは接続してくる機器が増えても一定の品質を確保できる。これは明らかにキャリアの事情だけしかない。しかも、それによって端末代金も通信費用も増額されるのだから、消費者の側はコンテンツやアプリケーションという点では享受する利益が何も変わらないのに値上げだけされる印象となる。

これは、確かに「通信」というサービスの品質を維持したり向上させるための費用だと言われれば納得もできるだろう。しかし、5G に関して大合唱されるのは、通信品質の話ではなく、たいていが遠隔操作で診療するだの何のという、実はどこの国でも実現していない絵空事でしかない。これではキャンペーンとして何年も展開しているうちに、何も実現しないのだからデタラメだという印象を消費者に与えるのも無理はない。もうそろそろ、通信品質そのものに投資してくれと正直にキャンペーンの趣旨を変更するべきだろう。遠隔医療なんていう、医師法の改正案すら発議されてもいないデタラメは、もうたくさんだ。

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