Scribble at 2023-09-17 13:31:41 Last modified: 2023-09-18 09:21:52

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在日コリアンのほとんどは戦前日本が行なった強制連行の被害者及びその末裔だ、という「神話」がある。この神話は日本社会に広く流布し、今や「常識」にすらなりつつあるが、著者はそれに疑問を呈する。多くの在日一世の証言を読むと、大多数は金をもうけにあるいは教育を受けに、自らの意志で海峡を越えた様子がみてとれるからである。著者はこの「神話」がどのようにして拡がり、どう今の日本社会に影響しているかを分析しつつ、その実像に迫る。

鄭大均『在日・強制連行の神話』(文春新書、2004)

西尾幹二氏のような、マスコミ保守あるいは(僕に言わせれば)インチキ保守のヒーローを批判すると、もちろん短絡的な人々は僕がアカであるとかプサヨであるとか言い始めたりするのだろう。よって、上記のような著作も絶版になってしまっているのは残念だと言えば、そうした短絡的に右か左か、味方か敵かという発想しかない人々を更に混乱させるだろうと思う。それは或る意味で、わざとやっていることだ。人は混乱すれば、どうにかして「分かりやすい」ストーリーやキャッチフレーズを飴玉のように投げてくれる人や著作を待望するものである。いまでは、畏れ多くもスメラミコトのおはす我が国の史書を手掛けたなどと妄言を吐くコピペ構成作家とか、Abema に出てくるようなキャバ嬢と変わらない「政治評論家」のお嬢ちゃんとかがいるけれど、しかし僕はそういうものは用意していない。

というわけで、人が右か左かしか関心がない人にとっては混乱するだろうが、僕は一方では、かつて近畿日本鉄道の生駒トンネルを開通させる工事で多くの朝鮮人が動員されて、事故で多くの人々が犠牲となった事績を調べていたりするし、実家の近くにある、いまではコリアン・タウンと呼ばれている猪飼野という地域の記録なども眺めている。関東大震災のときに多くの朝鮮人や中国人を虐殺しておきながら呑気に年金で美術館巡りとかをしている東京の(一部の)高齢者の愚劣さには頭にくる。

しかし他方で、上記のような本も一読するべき価値があることを認める。確かに、強制連行でなく出稼ぎで来日した人々の中にも、全くの自由意志でやってきたわけではなく、純粋日本人様とやらのブローカーに騙されたり、借金のカタとして連れてこられたりした人々もいるだろう。よって、こういう話は他の多くの移民とか難民の事情と同じく、簡単にあれかこれかという区別やパターンとして分類したり語れるものではない。それゆえ、そういうさまざまな事情をさまざまに調べたうえで提出してくれるような仕事を日本の社会学者には求めているのだが、どうも彼らは自分の気に入ったストーリーに合致した、つまり被害者としての一世からしか話を集められないという、皮肉な意味での系統的誤差を積み上げているようだ。

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