Scribble at 2023-11-26 09:21:17 Last modified: 2023-12-01 08:25:07

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The Dunning-Kruger Effect is Autocorrelation

いわゆる「ダニング=クルーガー効果」についての、1年以上も前の記事である。Hacker News では定期的に取り上げられており、恐らくは「csh でスクリプトを書くのはやめよう」みたいな(粘着質の)啓発を目的としているのかもしれない。でも、どうして何度も取り上げるのか。それは、いまだにダニング=クルーガー効果を引き合いにした愚かな議論を語る、不勉強な大学生のブログ記事だとか、あるいは「クリティカル・シンキング」の先導師みたいな連中が出てくるからだ。しかし、既に心理学において「ダニング=クルーガー効果」は、いまや真面目に取り上げられてはいない。この話題が特に広く知られることになったのは、たぶん日本では東北の震災が起きた際に SNS で、たとえば大前研一氏に原子力発電の基礎を説明する主婦とかが無数に発生したからだ(大前氏は MIT で原子力工学の博士号を得ているエキスパートだ)。よって、「釈迦に説教」と同じ意味で「ダニング=クルーガー効果」という言葉が何か凡人が本質的に愚かであると説明する論拠として使われ始めたのだろう。だが、学術研究者が論じているというだけで、それが本当にある規則性や現象だとは限らないというのが、科学史を真面目に学部レベルで勉強するだけで分かることだ。

ただし、僕が当サイトで言っている「ダニング=クルーガー効果」は、ここで言われているような本来の意味、つまりバカに限って自分がバカであることを知らないし分かりようもないという皮肉(これは現在の心理学では否定されている)のことではない。本来の意味とは違うのだが、まさしく「ダニング=クルーガー効果」を「発見」した二人の心理学者が陥った過ち、つまりは自分たちが専門としている知識や研究手法についての過信や傲慢のことだ。そして、この手の尊大な思い込みというのは、本来の意味での「ダニング=クルーガー効果」とは逆に、いまでも学術研究者に認められると言われている。

そういうわけで、もう僕は最近は「ダニング=クルーガー効果」という表現を使わなくなった。自分が専門にしている分野での学者の思い込みというだけなら、端的に「無能の過信」やら「バカの傲慢」と言えばいいだけだからだ。

[追記:2023-11-28] なお、上記の記事について更に反論が出ているようだが、そもそもこれは「効果」と呼べるような一般論や規則性なのかという点がポイントでなくてはいけない。こういう解釈もできるとか、何パーセントかの被験者には認められたとか、そんな話をいくらしても科学ではなく、しょせん社会学のようなものだ。効果と呼ぶべき規則性を打ち立てるのであれば、人を納得させるだけの明白な証拠がなくてはいけないし、解釈によってどうとでもなるようなデータや仮説の設定ではいけないのだ。よって、「こんな人もいれば、あんな人もいる」という社会学レベルの議論をしていても、それは効果があるという根拠にはなっていない。わずかな可能性しかなくてもコミットする他にない癌の治療薬や開発 NGO の活動とは違う話をしているのだ。

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