Scribble at 2024-02-22 09:26:44 Last modified: unmodified

情報セキュリティだとか、あるいはサーバの構築・運用といった仕事なり職能への理解や敬意が足りないなどと不平を言う向きはある。仕方ないので、自分たちで「システム管理者の日」なんてものを作ってみたところで、そういう記念日すらシステム管理のプロパーしか知らないという現実があるので、ヘビやタコがてめーの尻尾や足を食って美味だと喜んでるような悲惨さがある。

まず、それは避けられないことだという現実を認め弁えるところから議論を始めないといけない。それが自分にとって残念だったり不愉快なことであろうと、それは或る意味では「自然」であり、避けられないことなのだと知るべきである。なぜなら、情報セキュリティの実務家やサーバなりネットワークのエンジニアとしてシステムを支えている真の主役なのだと高らかに X やブログで喚いているような連中に限って、では電力会社や通信プロバイダでメンテナンス工事を請け負っている人々への感謝をブログ記事やツイートで一言でも書いた試しがあるのかというと、決してそんな実例はないからだ。IIJ やさくらインターネットや楽天やマイクロソフトで、自分たちがまさに取引している電力会社や通信会社に感謝しようなんてイベントをやった事例など一つもない。更には、関西電力でも電線の原材料を加工している下請け会社に感謝する日なんてものは制定されていないし、各地の施設にいる警備会社のスタッフへの慰労を表すイベントなんか開かれた事例はない。そして、電線の原材料を加工している会社で働く人々が電力会社に感謝したり、あるいは自分たちが働いているあいだ家事や育児をしている連れ合いに感謝を表す機会がどれほどあろうか。そして、家事や育児に励む人々が保育所のスタッフや学校の用務員に感謝を示して何をしたことがあるだろう。あるいは保育所のスタッフや学校教員が、地域の安全を支える警察官や消防署員にどう感謝を表したことがあるというのだろう・・・こんな調子で、誰かの生活や仕事や活動を支えるという意味では幾らでも問えるし、こういう問いはどこかで循環しているようにも思える。

だからといって、世の中であらゆるサービスなり仕事(もちろん家事も含めて)に従事している人々へ感謝すると言っても、それが具体的にどういうことなのかは計り知れないことでもあるし、具体的に誰と誰などと言えないのであるから、結局は「われわれを支えてくれている人々」などと NHK や官僚が捻り出す、具体的に誰とは言えないために誰の心にも届かないキャッチフレーズみたいなものにしかなるまい。現実には、自分を支えていると言える人々を数え上げることはできないし、感謝すると表現してみても一人ひとりには届かないような言葉にしかならないわけである。すると、ともかく「直に世話になっている人々」だけでも取り上げてみたら、そこから先に繋がる人々にも感謝していることが伝わるのではあるまいかと期待できるかもしれない。でも、その「直に世話になっている人々」とは誰であるかを、本当に適切に選別できるだろうか。そこでの選別を間違うこと、つまりは MECE に(不足も重複もなく)感謝すべき相手を選ぶことができないなら、そういうパフォーマンスは逆にあなたを(どういう意味かはともかく)本当に支えている人々を正式に無視することとなり、逆効果になりえる。それゆえ、そのような無礼を避けようとすれば、アメリカの映画や音楽などの授賞式で賞を受けた人物が長々と関係者の名前を列挙するといった、それなりに滑稽な様子を眺めることになるわけだ。しかし、あれですら名前を挙げてもらえずに憤慨する人もいるはずである。

われわれは、自分の生活や仕事などを支えている人々を数え上げたり、その中のどれが「本当に」「重要である」かを決めることなどできない。そして、せめてその一部だけでも取り上げて何らかのメッセージを出せばいいのではないか。自分はこういう人たちに対してメッセージを出して、他の人は別の人たちにメッセージを出すという具合に、それぞれがやればいいのではないかという期待はあってもいいと思うが、実際には大抵の人から関心を持たれている仕事や業種というものは偏っている。そして、それゆえに感謝を伝える相手を選ぶというときに MECE ではないという問題があるのだ。それでも、何もしないよりはマシだという考えはあっていいし、偏っていようといまいと、無視することで恨まれようと、とにかく自分としてはいまのところこういう人々に感謝したいというコミットメントの上で何かを表明するのでも構わない。MECE ではなく偏っているとは思うが、そもそもそれを「いけないこと」だと言ったところでどうしようもないからだ。人は全能全知ではないし、そもそも(哲学者として言うが)そんなものを目指したり理想にするべきでもない。だが、そうであると分かっていて何かをやるかどうかには、大きな違いがある。

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