Scribble at 2021-09-26 00:39:15 Last modified: 2021-09-26 00:46:29

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経営革命大全 新装版

文庫で新装版が出たのは2014年だが、もともとは1990年代までの経営「理論」(僕は、その大半はまともな社会科学の「理論」とは思えない)を紹介したり批評している本なので、扱っている著書には、僕がこれまで紹介してきた多くの本は含まれていない。でも、その多くは後から出版されたからといって別に新しい何かを言っているわけでもないので、心配は無用だろう。

さて、本書は取り扱うテーマを絞っているものの、それぞれのテーマで数多くの著作なり見解を説明しているため、注釈も含めて700ページ近い大部の本である。ただし、著者も予め書いているように、それぞれのテーマは独立しているため、興味のあるテーマをいきなり読んでも全く問題ない。僕も、幾つかのテーマはぜんぜん読んでいない。扱われているテーマは、リーダーシップ、変革のマネジメント、学習する組織、チームワークによる生産性、経営戦略、モチベーション、ビジネス社会となっている。そして、僕は既に別の落書きで簡潔に説明したとおり、経営学に関連する本を読んでいる理由は蔵書の処分と、僕自身の家庭生活に役立てることにある。したがって、変革のマネジメントとか、チームワークによる生産性とか、モチベーションとか、ビジネス社会については飛ばし読みだったり、殆ど目を通していない。いや、寧ろ企業人として何か職責に供するためという目的があったとしても、それらは読んでいなかったかもしれない。はっきり言って経営者や起業家でもないのに経営戦略など学ぶ意味はない。しばしば、平社員でも経営者になったつもりで考えよなどとポーターを読ませたりする愚かな経営者がいるが、そんなものを読むよりも前に、平社員は社会人なり企業人のまともな素養として商法や簿記のテキストを先に読むべきであるし、その後にだって即座に経営戦略の本を読む必要はない。いや、そもそも一冊ですら読む必要があるかどうかすら、僕は怪しいと思う。

さて、そういうスタンスで経営学やビジネス書に接しているからして、本書のように辛辣な批評を加えている著作を高く評価しているかと言うと、確かに興味深い論点を整理してくれていたり、ぜんぜん知らなかった著作や見解を知るには役立ったのだが、それでも目を通したうちで半分くらいは「ふーん」という感想しかない。実際、著者らの批評は全てのテーマについて加えられているわけでもないので、本書の大半は1980年代から1990年代のビジネス書を概説したというだけに留まっているからだ。

それに、著者らの意見にはっきりと同意できない点も幾つかある。たとえば、著者らも他の guru たちと同じように manager vs. leader という対比を安易に支持しているようだ。でも、僕はこの対比は manager を故意に leader とは異なる欠点だらけの役割として設定した藁人形論法だと思っている。実際、著者らも「リーダーシップ」とは個人の属性や性格で説明できるのではなく、フォロワーとの関係という〈状態〉なり〈状況〉として説明できると解釈していて、僕もこの解釈を支持している。しかし、それならどうして manager vs. leader などという対比で善悪なり適不適の問題として固定しようとするのだろうか。或るときは、僕ら部長級の人間は manager でもあるし、時として leader でもありうる。それは、フォロワーとしての他の社員がどう考えて関係を結ぶか、そして僕ら自身がどう関係を結ぼうとするかによって異なるだろう。たとえば、僕は社内のルールを施行して個人データを適正に取り扱わせようとする場合は manager としてふるまうが、国内法や JIS などを超えた観点から個人情報やプライバシーやパーソナル・データの望ましい取り扱いについて、社内のルールを改善したり更新する必要があることを社内で訴えたり研修で解説しているときは、leader としてふるまっている。

ともあれ、著者らの現実的なスタンスや経験からの批評は、おおむね傾聴に値すると思う。実際、経営学の本を数多く読んできて印象を改めて強く持ったことなのだが、とにかくビジネス書なるものを書いているコンサルやライターはもとより、HBS などのプロパーであっても、その有名で流行した議論の多くは、社会科学として未熟なレベルである。はっきり言えば、素人哲学、素人心理学、素人社会学、素人認知科学、素人経済学を、単に会社とか商売という限られた範囲に応用したというだけの、学生レポートとしか言いようがない著作が多すぎる。こんなもので企業や読者から金を集めているのだから、ボストン、マッキンゼー、アクセンチュアから地方のデタラメな個人事業主に至る経営コンサルは言うに及ばず、ハーヴァードだろうが LSE だろうが、あるいは聞いたこともないような大学で教えていようが、経営学者の大多数も恥を知れと言いたい。

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