Scribble at 2023-10-17 12:04:28 Last modified: 2023-10-17 13:04:37

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LIMITATIONS OF MOOCS FOR COMPUTING EDUCATION- ADDRESSING OUR NEEDS MOOCS AND TECHNOLOGY TO ADVANCE LEARNING AND LEARNING RESEARCH (UBIQUITY SYMPOSIUM)

僕はブームになる前から現在に至るまで、MOOC というのはオンライン化されただけのカルチャー・スクールに過ぎないと言ってきたし、それは運営方法や収益構造だけでなく社会的なインパクトがないという本質的な趣味性・一過性・非社会性についても同じだと言ってきた。もちろん、こんなものは最初から単なる商売であると知っているので、別に憤慨したり非難するつもりなどない。MOOC が普及したら大学に通えない貧しい家庭の子供にも何らかのチャンスがあるとか、あるいは地域社会の民度が上がるなどと思いこんでいる人たちからすれば由々しきことかもしれないが、近所のオバちゃんが料理教室に通ったくらいで世の中が良くなるものかと最初から知っている人間にとっては、こんなの普及しようとアフリカの子供の大半がアクセスできようと、どうだっていいことだ。寧ろ、こんなものに「社会を良くする」ためのチャンスを丸投げせんばかりに宣伝したり評価したり称揚したり、果ては公教育に持ち込もうとする連中の方にこそ不愉快なものを感じるね。なので、MOOC に教育的な効果なんて殆ど無いとか一定の効果しかないという結果が蓄積されつつあるという現状についても、驚くようなことでもなければ残念に思うようなことでもない。

とにかく当初から指摘されていたことだが、MOOC が「世界の教育問題を解決する」などというフレーズが、すぐにでも実現するかのように著しく誇張されたデタラメであることは明白だ。また、MOOC は教育の「問題」が何であるかを、コストや効率などの短絡的な話題として隠してしまう逆効果であることも早くから指摘されていた。MOOC には安定した高速ネットワーク回線と、動画を安定して再生できるスペックのコンピュータが必要であり、それに加えて大半の最貧国で暮らす子どもたちが全く理解できない English という大きな壁がある。実際、「英語は世界の共通語」であるなどという思い上がったタワゴトを口にしているのは、先進国の英語圏で暮らす人々や(ドイツやフランスや中国にも、当然だが英語を全く理解しない人々がたくさんいる)、英語に何か歪んだコンプレックスを持っている人が多いジャパンとか呼ばれている文化的辺境国家の住人だけである。

また、多くの追跡調査で分かってきたこととして、MOOC はいわゆる「ながら勉強」となっていて、大半の内容は聞き流されているため、いわゆる批判的な読解を必要とする分野には向いていない。小説のオーディオ・ブックを聞き流すように筋だけ覚えて、後からおおよその筋書きを答えるといった、雑な歴史の勉強などでは使えるかもしれないが、講師の話している内容に沿って自ら考えなくてはいけない、それこそ哲学や経済学のような分野では聞き流しなど殆ど役に立たない。

加えて、MOOC を利用する人々の履修傾向を調査すると、効果的に学びたいとか、あるいは単位を確実に取りたいという理由で、多くの人が既に自分が従事している仕事に関連する分野であったり、自分が過去に履修した大学の科目を再び選んでいたりする。そして、MOOC のオンライン授業が実際に始まると、既に一定の知識や経験をもっている人から見て、そのレベルの低さに失望して履修を途中で辞めてしまう人も多いし、色々な理由で何十回にも渡る履修を続けられない人も多く(そもそも MOOC だろうと教室の授業だろうと関係なく勉強を続けられない人だったり、あるいは何らかの学習障害に気づいていなかったりする)、科目の完了率が著しく低いことも分かってきている。

それから、MOOC を運営しているのは IT ベンチャーや IT を教えている大学なのだが、そこで最も履修の実績なり効果があるとされている科目が IT 関連であるという点にも、僕らはいかがわしいものを感じる。要するに、MOOC は IT 業界と IT 関連の学科をもつ大学の自作自演である可能性が高いということだ。教育の問題を IT が解決するという触れ込みで MOOC は展開されているけれど、MOOC は何を解決しているというのだろうか。授業を受けるためにお金がかかるということなのか。それはそれで授業については解決するかもしれないが、それを解決するべきなのはどうしてだろう。それは、大学を出て就職に有利な知識とか学歴を得たいということではないのか。であれば、MOOC なんて履修してもハーヴァード大学を卒業したり UCLA の学位をとったことにはならないのだから、しょせんは自己満足で終わるのではないか。

結局、IT 業界にとって都合がいい、IT 関連の授業しか理由していない大量のコマや歯車としての学生を自分たち自身の用意した MOOC という場所なり脈絡で量産したいというだけの話なのであろう。だって、MOOC で JavaScript のコーディングしか学んでいない人は、まさか労働法とか社会福祉の授業なんて履修しないだろう(というか、労働法や社会福祉のクラスが MOOC で用意されている実例なんて見たこと無いし)。そういう、口答えする歯車なんて MOOC を展開する企業や業界にとって必要ないのである。

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