Scribble at 2021-11-25 18:27:38 Last modified: unmodified

PBS などの大手メディアで活躍する写真家のピーター・クロウ(Peter Krogh)がキャッチーな名前をつけて長いあいだ推奨してきたという、デジタル・データのバックアップに関するシンプルなルールがあって、もちろん本人がわざわざキャッチーな名前を付けたと言うとおりに、たいへん簡単なルールだ。それは "3-2-1" と呼ばれている("the 3-2-1 principles" とか "the 3-2-1 backup rule" などとも言う)。具体的には、Rick Vanover 氏の要約を使えば以下のようなものだ。

・三つのコピーを作り、

・二つの異なるメディアで保存し、

・一つはオフラインで所持しろ。

したがって、或るデジタル・データのバックアップとしては、

(1) パソコンのストレージに格納しているデータ

(2) クラウド・ストレージにコピーしたデータ

(3) Blu-Ray に記録して自宅に保管しているデータ

などが該当するだろう。もちろん、僕は Scrapbook に保存したウェブページとか音楽ファイルとか PDF の資料とか、あるいは当サイトのデータなどは 3-2-1 にしたがってコピーを取ったり、別のメディアに記録している。そして、昨今では多くの企業でもデータをパソコンのハードウェアだけでなくクラウド・ストレージにもコピーしていたりするのだから、3-2-1 とまではいかなくても可用性レベルは徐々に向上しているだろう。とにかく、ここ数年でストレージを運用するコストが安くなって、Google One でも 2TB のストレージを年間13,000円で使える。2TB なんて、動画編集の事業でもやっていない限りは、毎日の経理データだけでなく50人くらいの全社員のメールをまとめてファイルサーバに置いて Google One へバックアップしたとしても、5年以上はデータを追加していけるほどの容量である。概算だが、スパムも含めて大量のメールを受信している役員級で、おおよそ1年でメールが 3GB くらい貯まる。すると、単純に50人で150GBだ。5年ぶんでも 1TB にすらならない。

つまり、これは昔から情報セキュリティの実務家なら誰でも分かっている筈のことだが、バックアップという管理策の問題は技術やコストではなく、人なのだ。「面倒臭い」という最大の障害、つまり心の脆弱性に対抗する手段がない限り、なかなか実効性が上がらなかった。ここ最近になってクラウド・ストレージのサービスがたくさん登場して競争した結果、サービスの品質が向上して価格も低くなり、一時期はリコーを始めとする国内事業者のクラウド・ストレージなんてパソコンを書い直した方がマシという値段だったが、いまや Google や Box や Dropbox によって気軽に大容量のストレージが使える。そして、常駐型のクライアント・ソフトが使えるため、放って置いてもバックアップしてくれるのだから、これを使わない手はないだろう。

もちろん問題がないわけでもない。たとえば、本当に事業として永続的なサービスなのかどうか分からないという点がある。各社ともに競争しているため、破れてシェアを奪われた事業者では管理コストを維持できなくなってサービスが終了する可能性はあろう。うまく他の事業者が買収するなりサービスを引き取ってくれたり、あるいは移行期間を設けてくれたらいいが、ファイル共有サービスのような、違法な目的でも頻繁に使われるサービスの場合は、急に使えなくなることもある。3-2-1 の最後に、オフラインで一つ残せという原則があるのは、そうした事態を考慮してのことだろう。しょせん、クラウド・ストレージは他人に依存しているのだ。脱税する連中でも、最後の最後は自宅の庭に札束を埋めるではないか。

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