Scribble at 2021-08-12 16:17:47 Last modified: 2021-08-13 19:10:59

ネイティブの人々が母国語を短期間で習得するのは、言ってみれば当たり前のことである。なぜなら、ネイティブは辞書も通訳もなしに母国語の環境へ、嫌でも何でも〈常に〉置かれているからである。こう言っては身も蓋もないが、そういう環境に置かれていれば将来の大学教授でも将来の犯罪者でも言葉を覚えるのだ。ここで、50歳から英語の勉強を始めようとする外国人にとって、英語の環境に身を置く時間が n 時間あるとしよう。その人の習得の目標がネイティブの15歳くらいだとするなら、1日に2時間を英語の勉強に充てられる人は、簡単に言うと 8 (=16/2) * 15 = 120 年かけたらいいという話になる。(24/n ではなく 16/n として計算している理由は、睡眠時間の8時間を言語の習得にとって、それが英語だろうと日本語だろうと何らかの点で有効かもしれないと想定したからである。特定の言語にとって有効なのか、それとも何であれ言語を習得するために概念の整理などとして有効なのかは、専門の脳科学でも答えが出ていない。それゆえ、日本人が英語を勉強するときにも有効である可能性があるため、差し引いた。)

もちろん、120 年という時間は費やすことが不可能なコストである。すると、その2時間をどう使えばいいかという能率や効果の話が次に出てくるだろう。ネイティブとしてぼんやりと過ごす時間がどれほどあるのかは知らないが、15歳の平凡な若者として育つまで無為に過ごす時間が累計でいくらかあり、逆に学習する外国人が2時間を効率よく効果的に利用すれば、実質の割合は 16/2 から 16/4 へ、更に 16/8 へと向上してゆく筈である。もちろん、その能率を 16/16 つまり1にしても、結局は15歳の若者と同等の英語運用能力や語彙を身につけるのに15年もかかることにはなるが、そこまで能率が上がれば15年という期間そのものは馬鹿げたコストでもない。習得し終わった時点で65歳の人物に英語を利用する〈資格がない〉などと言える人間がどこかにいればともかく、65歳からネイティブで15歳相当の能力で英語の文章を書いたり喋って何がいけないのか。

ただ、16/2 から 16/16 へと能率を引き上げる現実的なプランは、どのていどの難しさだろうか。幾つかのリソースを調べると、ネイティブの15歳くらいの若者の語彙は20,000語とされている。恐らく、それにイディオムを加えると25,000の「語句」が目標となってしかるべきだ。これをネイティブは(年齢によって習得する量は違うと思うが)15年間で習得するとして1年あたり1,666語句となる。1日で5つだ。自然に過ごすネイティブが1日5つの割合で語句を覚えた数として25,000個を想定すると、8倍の効率とは1日に40個の単語を覚えるくらいの何らかの手法が必要になるということだ。15年を英語の勉強に休まずに費やすという条件つきであり、更に1日に40個というのは、かなり難しい数だろう。最近はスマートフォン向けにゲームやクイズの体裁で単語やイディオムを覚えられるアプリケーションが人気を博しているため、これを利用すれば更に能率は上がるかもしれないが、これはどういう方法があるだろうか。

ただ、話を簡単にしたいわけでもないが、実際には英検1級とか TOEIC スコア900のような、いちおう他人に披瀝できるくらいの成績が欲しいだけなら、語彙は1万あればいいとされている。よって、上記の効率に当てはめるなら、1日あたり20個の語句を覚えたらいいという具合にノルマは半分になる。それでも、1日に20個ずつ覚える学習を15年間続ける必要があるのだから、少しでも怠けると挽回するのに1日あたり100個とかになって、途中で挫折してしまう可能性は高い(親が死んで葬式している最中に単語帳を広げるような人はいまい)。よって、単純に覚えようとする個数を多くするだけではなく、結果としてそれだけの語彙が身につくような効率の上がる学習方法が必要なのだろう。もちろん、そうは言っても、ネイティブと同じく実生活の中で英語を使うことが、実は最も効率のよい方法であるという身も蓋もない可能性はあるわけだが。

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