Scribble at 2023-04-29 22:22:14 Last modified: 2023-04-29 22:29:14

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連休中に剃刀を研ぐ話を、素人ながらにまとめておきたいという話はしたと思う。もちろん、こういうことに「正解」があるとは限らないし、刃の先端部が1㎛にもならない小さなスケールの話であれば、研ぐ際の用具や本人のコンディションなどによって結果は幾らでも変わるだろう。それは、もっと大きなスケールの髭剃りそのものについても言えることだ。よって、何か一つの考え方とか条件を決めたり主張するつもりは全くない。しかし、YouTube なりウェブの検索で、それこそ髭剃りマニアからプロの研ぎ師に至るまで、素人だろうと職人だろうと、とにかくデタラメなことを適当に書いているという印象が強い。「科学」である必要があるかどうかまでは問わないまでも、常識的に考えたらおかしいだろうと思うようなことを、誰に教わったり妄信しているのか、平気で喋ったり書いたりしている。

その代表が、コンケーブや切れ刃の角度から考えて、刃背と刃先を砥面に密着させて研いでも切れ刃なんて作れないのに、数十万円の天然砥石で30回ほど研げば切れ刃を作れるなどと言ってる嘘つきどもだ。繰り返すが、それは、既に工場出荷時に完成している筈の切れ刃とは関係のない、刃の内側を馬鹿みたいに削っているだけなのだ(記事にも掲載した上の図を参照せよ)。そして、研いだ結果を丁寧に検証したこともない連中には分からないだろうが、鋼というものは番手の高い高級砥石で研いでも、そう簡単には削れない。だからこそ日本料理の調理師などは毎日のように丁寧に何分もかけて包丁を研いだりするのである。しかも、包丁は剃刀ほどの切れ味が求められないし、「仕上げ用」とされる高級砥石を使っていても番手はせいぜい #6,000 もあれば高い方だろう。そういう、剃刀に当てはめると粗い方の砥石ですら何分も研いでいるのである。#15,000 なんて番手の砥石に30回ほど当てたくらいで鋼が削れるわけないのだ。それこそ、角度をしっかり定めて1㎛以下のスケールで切れ刃を作るためにやってるならともかく、それを上の図のように間違った角度でどれだけ繰り返しても意味はないのである。

それから研ぐ話に関連して言っておくと、顕微鏡を買って実際に刃先の様子を何度も見ていると、顕微鏡を使っているという研ぎ師や刃物マニアですら、その動画やブログ記事の大半は無意味であることが分かる。そういう人々の記事は、実は何十万円の顕微鏡の画像をアップロードしていようと、その画像の扱い方という知見を記事に殆ど反映していない。つまり映し出された画像について、金属学や材料科学という観点での観察方法というものを反映していないのである。簡単に言えば、顕微鏡の画像を紹介する研ぎ師や刃物マニアは、とにかく刃線が真っ直ぐになっているかどうかしか気にしていない。刃の先端が鋸状になっていたり欠けていたりしないかどうかで判断しているのだ。しかし、それは剃刀の刃の見方でもなんでもない。刃線に平行な研ぎ方で刃の先端をおおよそ真っ直ぐに研ぐなんてことは、僕のような素人ですら、何回か研磨フィルムで試したら簡単にできた。しかし、剃刀の刃というものは刃の先端が真っ直ぐかどうかだけで切れ味が決まるわけではない。これは、替刃だろうと SR だろうと剃刀の刃を自分であれこれと調べたり研いだりしている筈の人間にとっては初歩と言っていいような事実である。

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