2018年08月28日に初出の投稿

Last modified: 2018-08-28

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

PHILSCI.INFO の方でも津田さんの本を取り上げたときに EBM (evidence based medicine) に言及したのだが、昨今はかなり通俗書で濫用されているらしく、統計を使って説明していればなんでもかんでも「エビデンス」にもとづいている科学の説明だという話になりがちである。特に、栄養学は特別な才能をもつ科学者が昔から少なくて、はっきり言えば家政学や社会学並みの主観や利害関係に影響されやすい分野だと見做す科学者もいる。しかるに、夥しい数の「エビデンス」も大半が食料品メーカーの研究所に所属する人々が発表していたり、疫学や東洋医学や代替医療などとの接点があるからかEM菌やら海洋水素水やらコラーゲンやら冬虫夏草やら、色々なイカサマ(こういうのを、もう「偽科学」と呼ぶのは止めた方がいいと思う。こんなものは価値観や文化の違いといった、置き換え可能なものではないからだ)と一緒くたになっているようだ。そして、東アジアの僻地では、ハーヴァードにいたというていどの経歴の人物が凄い権威をもっているかのような錯覚が、21世紀にもなっていまだにまかりとおる(あの小保方晴子さんですら、ハーバード大学医学大学院客員研究員だったのだが)。

統計を使った説明というものは、何を示すかだけではなく、何を示さないかによっても、イカサマ師が「科学的な説明」という衣装をまとって大通りを歩けるようになる。それこそ、僕ら科学哲学のプロパーが戦後間もない頃から取り組んできたテーマだ。また、因果関係について述べている場合には、僕が個人として取り組んできた確率的因果関係というテーマで、シンプソンのパラドクスを始めとする、不適切な属性の設定とかパーティションの分割に関わるイカサマとも密接に結びつく。ただちに著者がイカサマをやっていると断言するつもりはないが、試験グループは対照群と比べて脳卒中、心筋梗塞、およびそれらによる死亡が30%少なかったという記述の裏には、5年経過を見た研究で、対照群では "1万人あたり6人弱" に脳卒中を起こしたり、亡くなった方がいました。でも試験グループは "1万人あたり4人" でしたという事実があるだけのことであり、正味の数として2人という違いを「30%」と言い換えるのは、やはり栄養学に対する(少なくとも僕のような科学哲学者の)不信感を増やすだけだと思う。

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