Scribble at 2025-10-27 14:39:37 Last modified: 2025-10-27 14:47:07
昨今のバックラッシュというか、もともと必要なかった組織にとっては正常に戻すだけのことなのだろうが、いわゆる RTO (return to office) を叫ぶ企業が出てきている。ただし、このような表現に違和感をもつ人もいることだろう。とりわけ、採用・雇用されて入社した当初からリモート・ワークが標準だったという、コロナ禍以降に社会人となった人々にとっては、リターンもバックもない。もともと出社していなかったからだ。したがって、このような表現はコロナ禍を経てリモート・ワークの必要がなくなり、しかもリモート・ワークの方が色々と支障があるという組織にとってだけ当てはまるような表現なのだろう。実際、Gemini に質問してみると、最初からリモート・ワークでない人たちにも当てはまるような表現としては、"onsite work" とか "in-office model" などと言った方がよさそうだ。
とは言え、たいていの場合は経営方針の転換などと言っても大勢に流されているだけであり、独自の基準でリモート・ワークや onsite work の評価や是非を決める知識や経験など経営者や人事は持ち合わせていない。だが、評価や是非を語る前に最初から明らかな事実はある。
たとえば、リモート・ワークへと移行したときに、事業所を縮小した弊社のような場合は、机の数も最小限だし、デスクトップ・パソコンはすべて廃棄しているので、もし全員を会社へ戻すというなら、最低でも全員が執務できる机を確保しなくてはいけない。更には、多くの職能にとってノート・パソコンの画面サイズは作業の効率を落とす要因となるので、必要に応じてデスクトップ・パソコンを再び揃える必要があるのだ。
ここでは、さしあたって事業所の移転を考えよう。50人前後の企業だと大阪市のテナント・ビルで移転すれば、150坪ていどの敷地を借りると、毎月の賃料が200万円くらいだから、仲介手数料(賃料の1ヶ月分で200万円)、保証金(賃料の1年分で2,000万円)、前家賃(賃料の3ヶ月分で600万円)、内装工事費(1,000万円くらい)、移転費(50万円くらいはかかる)といったように、入れ物だけでも初期費用として4,000万円弱はかかる。中小企業で、こんな金額を預金から簡単に捻出できるところなんて殆どないであろうから、もちろん銀行からの融資で準備することになろう。ということは、お金を借りるのに手を出すだけで良いはずがないから、事業計画書などを提出して、移転したことによって新しくのしかかる負債を返済して余りある効用があるという説得材料を銀行へ示さなくてはいけない。
こういう計画が甘いと、数年おきにデザイナーズ・オフィスだのインセンティブだのと馬鹿げた理由で移転して、そのたびに数千万円を浪費するようなことになる。弊社は僕が入社してからでも20年の間に4回ほど本社を移転しているが、事業所を移転して事業が成長したり売上が伸びたことなんて一度もない(だが、移転の理由として「事業の拡大のため」なんてことをコーポレート・サイトに掲載したりするわけだが)。リモート・ワークを望む声が若手だけではなく、僕らの世代でも多いという事実が示すように、はっきり言ってサラリーマンの大多数は自分のオフィスや机に愛着などもたないし、それが仕事のために何よりも必要だなんて思っていない。それは、社員のモチベーションを維持するために帰属意識が必要だという一つ目の錯覚に、帰属意識のためには会社という場所が必要だという二つ目の錯覚が加わった、度し難い妄想でしかない。