Scribble at 2022-10-22 20:33:15 Last modified: 2022-10-26 15:09:23

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Facebook でも Twitter でも TikTok に「してやられた」と思ったのか、短い動画を投稿するのが流行している。そしてその影響で、猫や犬を撮影した(下心はあれど)無邪気な動画から、こういう何らかの規制が必要と思われる動画までいろいろと好き勝手にシェアされる。僕は、こういう行為、あるいはこういう行為を動画に撮影すること、そして投稿して広めることについて、良い悪いを議論していいと思う。

世の中には、「良いこと」をしている人がたくさんいる。それはみんな知ってるとは思うのだが、彼らのやっていることを他人が勝手に撮影したり文章として公に知らせたり、あるいは自ら広報することは、彼らのやっていることの是非とは別の評価を要する話題である。そもそも他人が見知らぬ人間のやっていることを無断で撮影したり公に知らせることは、その動機に善意があろうとなかろうと、プライバシーの侵害となる可能性もあるし、公的な活動であれば機密の漏洩にもなりえる(自衛隊や在日米軍の基地を望遠カメラで撮影してソーシャル・メディアへせっせと投稿してるオタクとかもいるだろう)。

もちろん、逆に当人たち自身が自分たちのやっていることを撮影して告知しているなら、ありていに言ってそれは福祉であれ人助けであれ宣伝であり広報である。なぜなら、同じようなことをしている人や団体もあるのだから、やっていることが何であれ行政や一般市民からのサポート(いまならクラウド・ファンディングで寄付を集めるとか)を受けるという立場としては、競合が存在する事業だとも言えるからだ。そして事業を維持したり拡大・成長させるためには、公的な機関へのロビイングなり、公共の媒体での宣伝も必要となろう。

日本人の多くは慈善事業という概念を誤解しているため、NPO や NGO などをはじめとする団体から個人に至るまで、それらの活動を持ち出しの無給奉仕であるかのように錯覚しがちだが、「慈善事業」という言葉が示すように、事業である以上は人助けにもファイナンスというものが必要であり、そのための集客や宣伝も必要なのである。しばしば「手弁当」などというジャーナリズム特有の loaded language が、何か本質的に善行であるかのように使われるが、そんなものはたいていにおいて実態としてはボランティアというよりも金持ちの道楽を表すにすぎない。

そういう事情があって、たとえば日本と海外とでは「売名行為」という言葉の意味合いや条件にも相当な違いがある。海外では有名人がセレブリティを利用・活用して政治や経済や文化(場合によっては宗教)について何らかの宣伝や印象操作をすることが当たり前であり、それゆえメディア・リテラシーというものも発達している。良い悪いを議論するまでもなく、権力者やセレブとはそういうことをするものなのだという理解が常識になっている。

他方、信夫君がたびたび言うように、日本のような法治国家というよりも人治国家においては、権力者やセレブや企業経営者に人格的な崇高さとか清廉潔白さを民衆や要求するという、巧妙で伝統ある上向きのファシズムが横行しているため、アイドルが特定のイデオロギーを支持するような発言をすると、右であれ左であれ過剰な反応を起こす。特に日本では戦後の象徴天皇制という擬制においては些末な歳時記への感受性だけが豊かなノンポリ野郎というテンプレを気の毒に「天皇」と呼ばれる個人に強制するという憲法レベルでの人権侵害がまかり通っているし、それを多くの国民が疑問にすら思わないという土俗的な後進国であるという事実を、刹那的な消費文化を奨励するアメリカに隠してもらっているようなところがある。

いずれにしても、「バえる」動画を撮影して15分間だけの世界的有名人となるため、子供がせっせと車道へ飛び出して猫や虫が自動車に挽かれるところを助けようとする行為が広まってしまいかねないという懸念は、当然ながら考慮されてよいわけである。もちろん、大局的で皮肉な言い方をすれば、そんなことに影響されて車道へ飛び出して車に跳ね飛ばされるような愚かな子供は、まさしくそうやって馬鹿げた理由で死ぬことによって文化的に淘汰されているから、結果としては社会にとって何の問題もないのだと言ってのけることはできるだろう。最近の、Twitter などで喝采を浴びている(その多くはネトウヨやリバタリアンのフリをした)サイコパスやポピュリストの小僧どもなら、そういうことを言いかねない。

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