Scribble at 2022-04-11 15:56:18 Last modified: 2022-04-11 15:57:02

その昔、1970年代頃に FM ラジオで音楽番組が流す曲をカセット・テープに録音する「エア・チェック」というのが流行した。多くの若者が「ラジカセ(ラジオ・カセット・レコーダー)」を所持していて、土曜日や日曜日の昼過ぎに FM ラジオの番組が流していた曲をせっせと録音していたわけである。僕も『FM STATION』とか『レコパル』といった FM 番組の雑誌を買っては、目当ての曲が流される番組を待っていたものだった。

その当時はクラシックや洋楽のロックだのポップスだのを聴いていた。その理由は、テレビで殆ど流れないからだ。当時は『ザ・ベストテン』やら『カックラキン大放送』やら『夜のヒットスタジオ』やら『演歌の花道』やらと、邦楽の音楽番組はたくさんあったからエア・チェックするまでもなく嫌というほど同じ曲を聴かされた。それに比べて、テレビで洋楽を聴く機会はぜんぜんなかったから、洋楽のロックやポップスやジャズをどういう経緯かで知った人は、FM の番組をエア・チェックするしかなかったのである。

たまに YouTube で "80's music" などと検索すると、1980年代のたくさんの曲が聴けるようになった。しかし驚くことに、500曲ほど集めているプレイリストに集められた当時のヒット曲なるものを見ていくと、実はその7割くらいは聴いたこともない曲だし、5割以上は名前すら知らない人たちだった。聴いた経験があっても駄作などいちいち覚えてはいないから(すぐにチャートから落ちるので繰り返して聴かなければ記憶に定着しないのは、英単語を覚えるのと同じだ)、ヒットしたとは言っても一時的な話題性だけの駄作だったという可能性もあろう。でも、おそらくそうではない。そもそも FM の番組で流されていた曲の選択自体に輸入販売しているレコード会社や国内の代理人の意向が反映されて偏向していた可能性もあるし、何らかのランキングで上位の20曲くらいしか放送されなければ、或るていどヒットしていても20位以内に入らなかったという理由で一律に足切りされていた曲もあったのだろう。

でも、だからといって今更になって80年代のヒット曲をたくさん聴いておこうなんて思わないから、暇潰しにしか YouTube で検索しないわけである。実際、覚えている曲はそれなりに記憶も残っていて郷愁の感情を誘うし、実際にヒットした曲なのだから何か惹かれるものがあるのは当然なのだろう。でも、ぜんぜん覚えていない曲は、やはり何の興味も湧かない駄作にしか思えない。Guns N' Roses とか、AC/DC とか、Blondie とか、Journey とか、Men at Work とか、The Human League とか、Salt-N-Pepa とか、Aerosmith とか、U2 とか、僕にはいまいちピンと来ない。もちろん好きな人はいるし評価の高いアーティストやグループもいるのだろうし、何百万枚とレコードや CD を売ったのかもしれないが、そんなことで納得するのは悪い意味のアカデミズムというものだ。しょせん芸術とは鑑賞し〈使う〉者の主観が全てである。どれほどピカソが客観的に偉大でも、「意味不明でクソみたいな殴り書き」だと思っている人を説得することはできないし、説得できないという事実こそ芸術の根本的な限界を明白に証明している。でも、それは限界かもしれないが「欠陥」だとは限らない。

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