Scribble at 2023-09-06 08:10:32 Last modified: unmodified

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NURO の広告で使われたイラストがプロのイラストレータの描いた作品の盗用だったという、まぁよくある話ではある。でも、よくあるのは素人が事前確認もしないでやる事例が多いからであって、企業、しかも SONY 系列の NURO なんて会社がやるのは非常に恥ずかしいことだ。昨今の日本企業は、株価が上昇したり売上も上がっているというのに広告の出稿予算は減り続けている。要するに予算がなくなったら、都内のカスみたいなデザイン事務所か、脱サラして長野や愛媛で週末にパン屋を開きながら「デザイナー」と称している、たいていは凡庸または無能な連中を使うということでもある。すると、予算がないので更に新卒へ任せたり、あるいはクラウド・ワーカーにもっと安い金額で丸投げするのであろうから、こういうことが起きやすくなるのかもしれない。あるいは、企業として受注していながらリーガル・チェックやプロパティ・チェックする手順すら確立されていない素人が「デザイン・オフィス」や「ウェブ制作プロダクション」を名乗っているかのどちらかだろう。まぁどちらにしても、ウェブ制作会社なんて小学生でも勝手に自称できるわけだから、昔からありえることだ。

ただ、実際に使われた広告画像の出来栄えを見ると、これはいかにも素人が作ったバナーであろうと思う。いくつか理由はあるが、まずデザインの初心者がやる典型的な配置・レイアウトとして、全てのデザイン要素を漫然と同一平面上で並べるという特徴がある。文字だろうとイラストだろうと、お互いが重ならないように配置するという特徴がある。もちろん、僕らプロのデザイナーがバナーとかキー・ビジュアルを制作するときにも同じことを敢えてする場合はあるが、それは各要素を均等に見せて、しかも均等に配置していることに意味があるときだけだ。デザインというものは、或る見せ方を選んだという(少なくとも自分として明確な)意味や理由がないと、それを適用してはいけない。理由もなくバナーを赤色で描画してはいけないし、理由もなく書体を sans serif にしてはいけないし、理由もなしにバナーを正方形でレイアウトしてはいけないのである。こんなことは、おそらくデザインの専門学校でも入学した年の前半に習うようなことだろう。

次に、そもそも元のイラストからして『推しの子』というアニメで採用されているキャラ・デザインや色の使い方を真似ている微妙な(二次利用とまでは言えないにしても)作品であり、たとえオリジナルの作者から買い取るなり承諾を受けたとしても、このイラストを使うこと自体にリスクがあると思う。そういう、いま流行っているイラストレータの画風とか、あるいは話題になることが多いアニメ作品のキャラ・デザインやロゴの書体などを市場リサーチとして心得ておくのも、或るていどは職業としてデザインしている人間あるいは企業の責任だろうと思う。このイラストを描いたオリジナルの作者をちゃんと知っていて、イラストの使用権を買い取って広告に使うかと聞かれたら、僕は使わない。これは、僕のセンスから言えば明らかにアニメの『推しの子』のデザイン・テイストを真似ており、同人誌などで楽しむには良いが、オリジナルであろうと企業の広告として採用できる質のイラストではないと思う。

他にも、細かいことを言い出せば、意味もなく歪んだ文字を使うのはなぜかとか、「止」の周りに矢印を回転させるだけで「止まらない」ことを表現できるとは思えないとか、アピールしたい筈の「10Gbps」といった文字が意味もなく斜めに変形されていて視野に入ってこないとか、それから「NURO 光」という社名やサービス名は著作権表記ではないのだから、本当はもっと大きく見せないといけないのに、「©NURO」みたいな扱いと同じになってしまっているとか、色々とある。少なくとも、僕がアート・ディレクターであれば、この画像を示されたらこれくらいのことはコメントしたりデザイナーと議論するだろう。そして、このように第三者との議論を経ているということにも、プロとして納品するに足りる品質かどうかの基準があるのだ。ウェブ・コンテンツの受託制作は、これは20年くらい前から強調して言い続けているが、商業デザインでありプロダクト・デザインである。そして、プロダクト・デザインというものは芸術作品の制作とは違って、自分ひとりが納品物の責任あるいは権能を負っているわけではない。たいていのまともな制作会社では、どれほど有能と自負するデザイナーであろうと、上長のアート・ディレクターに認められなければ納品物としては認められないのである。こんなあたりまえのことを分かっていない人間が入れ代わり立ち代わり携わっては、自覚も理解もせず、多少は分かっても次の世代や同僚に継承したり共有したりバトンタッチせずに、一定期間ごとに素人が入れ替わっているだけなのが、ウェブのデザイン業界だ。よって20年前から同じことを言い続けるしかないのである。

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