Scribble at 2022-06-30 12:17:46 Last modified: 2022-06-30 18:09:07

「IT企業」なんて言葉は、そもそも「IT」にも言えると思うが、学界や業界の勝手な都合とか歴史的な経緯とかで使われるようになったと思う。とにかく何か客観的な由来や定義があって成立したと言うよりも、誰かが適当に言い始めたとか、或る意図があって使っていたとか、そういう事情があって広まったのだ。でも、現在は特定の国や企業や団体や個人の思惑や計画では制御不能なスケールと用法で市場なり社会に普及している。もう雑な言い方をしてしまえば、コンピュータとインターネットを利用してビジネスを手掛けていれば、何でもかんでも「IT企業」と言い張ってしまえる(そして多くの人々は不都合を感じない)状況だとすら言えよう。そして、それでいったい社会科学的な観点で言って(法的、経済的、政治的、あるいは社会的)何も不都合はなさそうである。逆に言えば、皮肉なことかもしれないが、既に「IT企業」という言葉には何か特別な価値があるかのような優性の何かを示唆するニュアンスなどなくなっているのだ。

よって、たとえば僕の勤めている会社が「ITベンチャー」なのか「ネット・ベンチャー」なのか、それとも単なる「ベンチャー」なのかと自問しても、あまり建設的で有益な答えは得られないだろうと思う。そんなことが分かってコーポレート・サイトで宣言して見せたところで、金なんて1円も儲からないだろう。企業というものは、しょせんレイブルなんてどうでもいいのであって、事業継続のために儲かるかどうかが肝である。ちなみに、"label" を英単語として発音すると、カタカナなら「レイブル」と表記できる。「ラベル」なんて言ってもアメリカ人には通じない。迂闊に言うと "level"(レベル)と誤解される。

さて、そうは言っても僕はものごとを分類したり区別して、ものごとの理解とか処置や判断を合理的かつ効率的に進めることにも価値を置いている。よって、「IT企業」であるとかないとかいう区別にも一定の価値があり、その条件を満たさない企業を別扱いする意味もあろうと思う。もちろん、その条件となる何かの基準とか水準に達していないからといって、「低級」だとか「不十分」だとは限らない。単にIT企業とは〈違う〉企業だというだけかもしれないので、この条件に従う判断だけをもって特定の企業を不当に扱うべきではないだろう。それこそ、差別というものだ。

僕が思うには、やはりもともとの「IT」という言葉を重視したいので、情報の伝播・伝達、情報の送受信、情報の形式や規格、そして情報の管理や制御といったフェイズにかかわっている企業を「IT企業」と呼びたい。したがって、当たり前のことだが、これらのフェイズに関わる自社のサービスや技術をもっていない「ネット・ベンチャー」の全ては「IT企業」ではない(よって、僕が勤める会社も、たとえば数千人規模の工場で光ファイバーや HDD を製造するとか、Google と一緒に通信プロトコルを起案するとか、数百億円の投資を受けて量子コンピューティングの新しい開発手法を生み出しているわけではないから、「IT企業」ではない)。そしてさらに、「IT」として最先端のテーマに取り組んでいるわけでもないため、「ITベンチャー」でもない。現状で「ITベンチャー」と言われるには、直にその会社の事業として取り組んだり関わっていなくても、社員の中にブロックチェインや量子コンピューティングや機械学習といった情報科学の「ホットな話題」について最低でも修士論文くらいは書いた人間(早い話、大学院レベルの離散数学や確率論や代数系の知識をもっている人)が何人かはいるのが当然だろう。

そして、このレベルの技術や知識を営業的な口先の誤魔化しとか見境のないガッツとかで何とか出来ていたのは、周りがみんなバカだった高度成長期の Japan とかいう国だけの歴史的な珍事だったわけだ。あんなラッキーを基準に経済とか産業とかビジネスとか経営を考えたり語るのは、はっきり言っていまどきあり得ないような無知無教養であろう。そして、いちどグローバル経済の中に置かれてしまったからには、もうそんなヤケクソに近い徹夜の繰り返しとか、得意先の部長のチンコを受付の女子社員が舐めるとか、そんなことだけでビジネスや事業がどうにかなる昭和時代はとっくに終わってしまった。現に、そんなことをやってもクライアントは仕事なんてくれないし続きもしない。ウェブ制作の場合はとりわけ、廃業した夥しい数の会社や個人事業主がまさしく実例である。ただし、まともなデータもなければ、業界のケツを舐めてるだけの経済学者や、社会正義の皮を被った左翼にすぎない社会学者には調べようもあるまい。

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