Scribble at 2024-03-04 08:28:38 Last modified: 2024-03-04 08:38:34

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三菱鉛筆は低価格帯の筆記具が中心で、万年筆は扱ってこなかった。少子化で日本市場の成長が見込みづらくなる中、ラミーの技術や販売網を取り込むとともに、品ぞろえの強化にもつなげる。三菱鉛筆は、年400億円程度の海外での筆記具の売上高を、36年までに700億円にする目標を掲げている。

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20240303-OYT1T50040/

三菱鉛筆の「シグノ307(Signo 307)」というセルロース・ファイバーが含まれる特殊なエマルジョン・インクのボールペンを愛好している、という話は何度か書いているが、企業経営としては賛同しかねる。

下手に株価が高くて株主から目先の成長だけを求められたりすると、バブル経済の頃もそうだったけど、こういうイージーな買収で売上だとか企業評価額を水膨れさせる会社がたくさん出てくる。それでも金が有り余ると、今度は数年前の中国企業のように外国の土地を買い占めだしたり、世界中の美術品を買い漁り始めるわけだ。まったく、愚かなことである。そうして、何年もたたないうちに、今度は逆のことを始める。

上の事例でも、別に万年筆の市場規模なんて大したことないのに、劇的な成長を株主へ示そうとすれば、どうしても新しい分野とか商材の企業を買収して事業評価額を引き上げるというパフォーマンスをやらざるを得なくなる。いままで続けてきた鉛筆の開発に同じだけの資金を投じても、株主(とりわけ海外投資家や機関投資家という連中)なんて数字の上がり下がりにしか興味がない、なぜかブルック・シールズ方程式のような数学を理解できるが、しょせんは札束を手に抱えているだけのサルなので、業界知識というものがない。よって、開発に投資するといっても理解しないし、しようともしない。そういうわけで、こういうお買い物をするしかないということなのだろう。

でも、メーカーがこのような買収をするのは、実はたいへんに危険なことである。第一に、既存の事業との社内抗争が始まったりする。たとえば、この場合だと万年筆メーカーの従業員、しかも海外の老舗ブランドの社員というのはプライドだけは高いので(正直、万年筆にも少しは興味があるけれど、LAMY なんて買収するほどの商品を作ってるメーカーだとは思えないね。Perikan や Cross や Waterman を買収するならともかく)、色鉛筆やボールペンを作ってる連中を小馬鹿にしてグループ企業内の軋轢を生み出す可能性はある。第二に、事業所として離れていると、簡単に言えば技術や設備の移転や継承あるいは他の事業部門から簡単に見学するようなことすらできないので、既存の事業にとって殆ど技術的なメリットがない。実際にエンジニアが工場を(視察や研修なんていう観光ではなく、何年も)見て回って、初めて分かるようなこともあるのに、これではオンラインで特許の PDF を眺めるのと大差ないていどの知見しか得られないだろう。第三に、業績が下がったり市場が縮小したり景気が悪くなると、こういう「外様」から最初に切り捨てるのが(日本に限らず)多くの企業の実態だし、理屈としてもそうすべきであるとすら言える。よって、このような取ってつけたようなグループ企業というのは、それが最初からわかっていればなおさら、仲間意識にも忠誠心にも欠けているため、グループとして活動するにあたって常にモチベーションなり生産性に一定の(心理的な)制約がかかる。しかも、景気が減退したときに売却する先がなければ、ようするに切り離して精算する他になくなるのだから、現地の人々にしてみれば、自分の国の伝統的な企業を外国の都合で倒産させられたように見える。そして第四に、社内で自力の開発体制を構築せずに企業買収で新しい品種や技術を導入するという経営方針に対して、既存の事業部のエンジニアは良い印象を持たないだろう。

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