Scribble at 2024-10-12 17:20:30 Last modified: 2024-10-12 17:22:07

たいていの法人税法の教科書では、まず冒頭で身も蓋もないことが解説される。それは、法人税を課税している実質的な相手が誰なのか、実は国も学者も分かっていないということだ。もちろん法令では「法人」に対して課税すると明記してあり、実際に税金は個々の企業や団体から納められている。だが、それはあくまでも法令で法人が納税という手続きをしなさいと書いてあるから会社が手続きをしているにすぎない。納めているお金の原資が何なのかは、誰にも分からないのである。したがって、形式的には法人が納税していても、実質的な課税対象が誰なのかはよく分かっていない。

納税するためには、もちろんお金が必要だ。大半の企業は赤字であるし、赤字でも納税の義務がある外形標準課税の対象でもないから、実際には法人税の大半は大企業や黒字の好調な会社が払っている。したがって、大半の中小零細企業や赤字の企業は、赤字という意味で無能であるにもかかわらず、更に行政サービスなどの受益者負担を納税としても行っていないので、完全にフリーライダーである。上場企業や大企業の社員が、たとえ新卒や三下であろうと中小零細企業を見下したり差別するのは、こういう知識があればなおさらのことなのだ。よって、中小零細企業や下請け企業は、できるだけ発注元である大企業や上場企業の社員が法人税法の基礎も知らない馬鹿である方が望ましいわけで、こうして企業の集団というものは下方圧力(馬鹿が多いほうが得である)がかかっていると言える。馬鹿の方が幸せなのだ。

さて、法人税を納税する原資がなんであるかが不明確である理由は、法人税を賄うために企業は色々なことをやるからである。企業の目標は利益を増やすことであるからして、固定資産の評価額が意味もなく下がったり、あるいは預金が投資などとは関係なく目減りすることは避けなくてはいけない。法人税を納めることも、企業にとっては(法令上は責任があっても)事業を遂行するために必須の出費ではないのだから、なるべく避けたい。したがって、たいていの特に上場していない会社は、いくら資金が必要でも資本金を増やしたりせずに(資本金が一定限度を超えると外形標準課税の対象となったり、法人税額の計算内容が変わるからだ)、銀行から融資してもらって投資に当てたりする。

法人税を納めるために多くの企業がやっていることは、端的に言えば転嫁である。法人税分を賄うために、法人自体の資金や資産は減らしたくないので、(1) 労働者の給与を引き下げる、(2) 株主への配当を減らす、(3) 調達先や外注先と交渉して値切る、(4) サービスや販売価格を引き上げる、(5) ちょっと人には言えないことを監査役や税理士なんかとやる・・・といったことだ。(5) は冗談、というか議論してもしょうがないから無視するとして(だって脱税だし)、(1) ~ (4) は法人税を賄うという目的だけでなく、「経費削減」など通常の業務の一環として行っている可能性もあるから、区別がつかないわけである。また、これらのどれか一つだけが正しいというものでもないし、法人によってやるやらないも違うはずだ。したがって、(1) なら実質的に法人税は僕ら従業員が負担しているし、(2) なら実質的に株主が、(3) は取引先、そして (4) はエンド・ユーザが負担していることになるが、これは一概に誰とも言えないし誰かだけであるとも言えないわけである。

なお、こういう転嫁が行われているであろうという見込みのもとに、転嫁が行われると従業員や株主やエンド・ユーザや取引先が損をするので、今度は取引先が自分たちの調達先に値引きの交渉をしたり、従業員は出費を抑えたり、エンド・ユーザは別のサービスへ移ってしまうという、経済の仕組みとしてはよろしくないことが起きるので、たとえば池田信夫くんのようなリバタリアンなんかは法人税を下げるほうが経済にとって良いのだと主張したりするわけである(彼らの主張の根拠に法人税法の仕組みが含まれているかどうかは知らないが)。でも、これは転嫁が行われているという仮定が妥当であり、実際に企業は何らかの転嫁先について法人税の負担を転嫁するために色々な施策を実行しているということが証明されなくてはいけない。企業がそういうことをする動機づけがあるという理屈だけでは不十分だ。

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