Scribble at 2026-03-05 12:42:31 Last modified: 2026-03-05 13:21:07
ジャスティン・サンの動画で、本を読むときに何を重視するべきかという話がある。彼が紹介している三つの着目点は、
・読んだことを、自分の知識や経験で関連がありそうなことと結びつけてみる。
・読んで得た概念を、マインド・マップなどへ視覚化して整理する。
・リフレーミングで、読んだことを他の話題へ適用したり、そうできると考える理由を自問する。
といったことである。PHILSCI.INFO で既に述べたように、彼がマインド・マップを使うことに拘っているのには感心しないが、それで彼の議論には学ぶべきことが多いので、ここでも取り上げる。
ただし、高校時代に現国の授業を真面目に受けていた人は覚えていると思うが、上に述べた着目点は、いわゆる「批判的な読み方」の一部でもある(そして、現国で「批判的」という言葉を正確に学んだ人は、アイドル上がりの国会議員よりも日本語を正確に運用できるわけだ)。したがって、これらだけで本の読み方として MECE になっているわけではなく、他にも幾つかの着目するべき点がありえる。たとえば、
・読んだことが、そもそも論理的に妥当な推論なのか。
・読んだことの前提は、本当に事実なのか。
・著者は、どうしてこういう議論をここでするべきだと思うのか。
他にも、実際には色々な着目点がある(おそらく、「MECE」に全ての着目点を列挙することなど無理だろう)。実は、こういうことは読んでいる特定の段落をまとめるだけでは理解できない、もっと前後の脈絡や記述内容といっしょにしか理解できないか判断できないことであり、僕がマインド・マップに拘るのが良くないと思うのは、マインド・マップで一つの段落をまとめようとするときに、そういう脈絡が抜け落ちてしまいやすいからだ。そして、マインド・マップを宣伝して回る人々というのは、いま僕が追加したような着目点が「ない」かのような読み方だけを列挙する傾向にある。本当に、その人々がこれら他の着目点に気づいてもいないか、高校の現国レベルの知識もない馬鹿なのか、それとも気づいていても何らかの方針なり理由で軽視するか無視しているだけなのかは、わからない。だが、われわれは物事を是々非々で判断するべきであって、教えたり宣伝する側の事情なんて物事の是非や真偽とは関係がないのだから、そんな事情や理由など無視して構わない。われわれにとっては、適切であり、事実であり、正しいことだけが目標なのである。マインド・マップのセミナー講師に「素晴らしい」と褒められたくて本を読んだり、何かを学ぶわけでもなかろう。
なお、ジャスティンが紹介している着目点で、三つめに挙げられているのは、簡単に言うと数年前から日本で出版だけが流行している圏論の話にもなる。圏論は演算の形式同士を比較して、構造どうしを「関手 (functor)」として結びつける。たとえば、機械学習や生成 AI の分野で言えば、一つの数値から他の数値への足し算という二項関数だけでなく、テンソルのような高次元の行列を同じように足し算で扱える関数があり、そういう関数は実質的に関手のアイデアを実装している。他にも、僕が専門としている科学哲学や分析哲学にも、supervenience(随伴)という概念があって、基礎関係が変わると随伴関係も変わるという対応関係があるという意味では関手のアイデアを使って議論できる。もっとも、分析哲学者でやってる人なんて、いちども見たことはないが。