Scribble at 2018-07-29 13:23:56 Last modified: 2022-09-27 17:31:18

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新たな高齢者医療制度―高齢者の医療の確保に関する法律―

引き続いて「後期高齢者医療制度」を調べているのだが、これも驚くことに、後期高齢者医療制度の根幹となる「高齢者の医療の確保に関する法律」という法令は、医療関係や福祉関係の専門分野で使われる法令集も含めて、殆どの六法全書で掲載されていない。僕が持っている『福祉小六法』(中央法規)という「福祉」の名をつけた法令集にすら掲載されていないのだ。したがって、『高齢者医療確保法基本法令集』(中央法規)という、この法令を収録すること自体を目的にした法令集を買うしかない。

よく、池田信夫君をはじめとする口先だけのリバタリアンは、若者にリップサービスを繰り返して高齢者福祉の制度を DIS るという話芸をブログやテレビ番組で繰り返しているが、実際にはそんなことをしなくても法律や出版、それから医療ビジネスにおいて大多数の高齢者と彼らの福祉医療制度は冷遇されていると言ってよいだろう。

それから図書館で上記の本を借りてきたのだが、これも絶版だ。中身は、大半が法令の条文を引き写しただけだし、解説を書いているのは「高齢者医療制度研究会」という構成メンバーも不明な集団の名称しかわからず、これでは無署名の素人が書いているのと変わらない。中央法規のサイトで、「厚生労働省保険局総務課老人医療企画室」と記されているのを見つけて、やっと官僚が書いた解説だとわかるのは不適切だろう(もっとも、解説に使われている、いかにも官僚が作りそうな PowerPoint 風の図表を見ると、おおよその予想はできるが)。

なお、法令の解説を更に詳しく読みたいなら、『高齢者の医療の確保に関する法律の解説』(土佐和男、法研)という本も出ている。この土佐さんも厚生労働省で制度移行に携わった方なので、法令の解説は行政側からの本しかないと言える。この本に言及するウェブページの大半は「敵側の人間」として扱っているわけだが、そんな下らないことを書く暇があったら、被保険者や医療関係者の観点で法令を広く解説するような著作を出すべきではないのか。実際、いま後期高齢者医療制度について書店で手に入る殆ど唯一の通俗書と言ってもいい伊藤周平『後期高齢者医療制度』(平凡社新書、2008)ですら、制度の沿革や成立の経緯を解説した第2章までに、「高齢者の医療の確保に関する法律」という言葉が一度も出てこない。どう考えても、制度を知り、議論するための基礎となるべき法律に関する情報が、不足どころか専門家からも軽視されているとしか思えない。

まったくもって、われわれのような哲学者がこういう情報を集めて自分のサイトで丁寧に解説するコンテンツが実務家や専門家の成果を遥かに凌駕するのだろうから、困ったものである(もちろん公開するのは早くでも数ヵ月後になるが)。理論だけにとどまらず実務のできる哲学者というのがどれほど有能なのか、しっかり見ておくがいい。

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