Scribble at 2024-08-30 14:46:42 Last modified: 2024-08-30 16:27:14
UX デザインの基本的な文献を読むとなると、もういまでは日本語で書かれた本だけでもたくさんある。既に何冊か目を通しているのだが、正直なところ最近の出版は UX を紹介することが目的というよりも、寧ろ、いつまで経っても普及しないので歳時記的な行事として出版されているような印象がある。ほら、毎年の3月頃になると C や Java の入門書を出版したり、開発系の雑誌で IDE やテキスト・エディタの特集を組むようなものだ。
ぶっちゃけ、当社のようにナショナル・クライアント案件を担当している制作会社ですら、こういうドキュメントを活用している案件は(会議で見せびらかすための「お絵描き」はともかく)少ないだろう。たとえば僕自身でも、サーバの構築にあたって正式な仕様書をクライアントに提出したのは(それこそ百件を超えるサーバ構築の仕事において)せいぜい5回前後だ。もちろん、大半の案件で UML なんて使わない理由は、われわれサーバ・エンジニアの費用なんて見積もりに入っていないからだ。広告代理店案件というのは、クライアントに提出する見積もりこそ色々な費目を挙げるわけだが、代理店に請求書を出すときは「一式」で終わりだ。その代わりに、昔の案件は「一式:2,000万円」とかいう雑でも大きな売上だったから、われわれの工数もどさくさで勘定に入れられていてもよかったのだが、やはりコロナ禍を経てからというもの、上場企業案件でも大半が WordPress でサイトを作って予算規模が一桁ほど縮小してしまった感がある。要するに、そういう規模の予算感や売上だと、「会社」というものを維持するコストすら捻出できなくなるわけで、はっきり言えばウェブ・コンテンツの制作というのはビジネスとして成立する事業ではなくなりつつある。なので、あと何年かすればクラウド・ワーカーの元締めみたいな会社だけが「ウェブ制作会社」として残ることになり、それもやがては消えるだろう。なぜなら、そのうち自動でサイトをデザインするような、AI を搭載した Dreamweaver みたいなものが出来て、他社にそもそもサイトのデザインや制作を発注すること自体が業務としてナンセンスになる時代がやってくるからだ。僕がかつて体験した、ワープロの入力業と同じ歴史をたどると思う。
僕は、それは個人的には別にどうだっていいと思う。われわれ、そしてとりわけ個人としての僕の目標は、生存することや豊かな暮らしを続けることであって、ウェブのデザインやプログラミングをすることではないからだ。有能な人間というのは、その程度のリソースしか割かなくても「二流」ていどにはなれるのである。なんでプログラミングなんてものに、学問と同じようなリソースを割くものか。割かなくても仕事ができるていどには有能なんだから、本当に自分自身の才能を真剣に注ぎ込むテーマに集中するのが真の生産性というものであろう。なので、給料次第だとは言え、こういう仕事で食べていけなくなったら、また鉄工所で棒に穴を開ける仕事に就いてもいいし、パン工場で食パンを包装したり、ガキに理科を教えてもいい。仕事というものにおかしな期待も価値も与えていない僕らにとっては、健康に害があるか犯罪以外であれば何をして働こうとかまわないし、院卒だからこの仕事は嫌だとか、おかしなプライドもない。ニュージャパンでマッサージ担当のお姉ちゃんのマネージャとか、建材の販売代理店で半分は詐欺師みたいなことを言って稼ぐ営業マンだったことすらある。
さて、そういう話はともかくとして、本書は UX のテキストとしては10年以上も前の出版であるから、現在のテキストに比べたら洗練は不足していると思う。でも、書かれているポイントは十分に参考になるし、具体的な内容はかなり不足しているが考え方はよく分かる。そして、実際に読むと350ページほどの本なのだが、ノートを取りながらでも1時間すらかからずに読了できた。なぜなら、本書は半分以上がツールの使い方を解説しているだけだからだ。つまり、350ページのうちで UX の考え方や実務についてポイントを押さえるという目的だけなら50ページほど読めばいいだけだからである。更に、今回は山畑古墳群のサイトを設計するにあたって参考にしようと思って読み始めたのだが、そういう事情でコンセプトだけを学んだ。それに、UX の実務として解説されている中でも、たとえばユーザビリティ・テストでの質疑応答とか、特に予定していないことについては、あまり丁寧に読んでいない。もちろん、受託案件で正式に UX に取り組む(もちろん、そんなことをして色々な文書を作成しても、あなたの工数を請求できる客が日本にいるとは思えんがね)なら、そうしたことも学んで具体的にインタビューの用紙も工夫して作るべきではあろう。
それから、ついでに Will Grant の 101 UX Principles: A Definitive Design Guide (Packt, 2018) というのも目を通したんだけど、これはちょっとお勧めできないな。この手の Dos & Don'ts 系の本は、体系的な理解が難しくて散漫な印象しかない。そもそも UX という狭い話題の原則が 101 もあるわけないんであって、それは "principles" じゃなくて "tips" だろうと言いたい。それに、これ実際には UX というよりも単なるユーザビリティの話題が多いんだよね。