Scribble at 2026-09-06 13:40:54 Last modified: unmodified
Hacker News でも大きな反響があった記事だ。.name のドメインを取得して、自分や娘の名前を使って FQDN として運用していたようだが、レジストラの VeriSign が 3rd level ドメインを失効させる措置を取り、ICANN もこれを支持したので、ブログ筆者の FQDN に関連する全てのオンライン・アイデンティティが消失したり、他人に奪われるリスクにさらされているという。
まず最初に説明しておかないといけないのは、"neil.fraser.name" という FQDN の場合、"fraser.name" というドメインを取得した人が勝手に作ったサブ・ドメインではないのかという疑問をもつ人がいるからだ。サブ・ドメインなんてのは DNS とウェブ・サーバで勝手に運用する者であり、レジストリが廃止したり拒否したりできるものではないはずだと思うのは自然である。しかし、".name" という TLD の場合は、実はサブ・ドメインに見える FQDN も 3rd level という独立したドメインであり、レジストラが販売する商品なのである。ICANN といい、この守銭奴どものやることは頭にくる。すると、"neil.fraser.name" が廃止されると "fraser.name" を独立したドメインとして所持していない限り、他人に "fraser.name" を奪われてしまい、なおかつ 3rd level ドメインがなくなってサブ・ドメインを作れるようになると、"fraser.name" を取得した他人が "neil.fraser.name" を運用できるようになってしまうわけである。実際、このブログ記事の筆者は "fraser.name" は所有していない。というか、もともとは "fraser.name" という 3rd level なしのドメインは取得できない仕様だったようだ。これまた、仕様バグとしか考えられない不備であり、ブログ記事の筆者が困惑するのも理解できる。
このような事例でも分かるように、オンライン・アイデンティティやデジタル・アイデンティティは、やはり特定のテクノロジーに依存するばかりか、特定の私企業、いやそれどころか特定の仕様とか契約に依存する不安定なものであって、いくら観念的に「アイデンティティとは他人との相互関係で決まるものだ」とか「アイデンティティは環境によって決まるものである」などと、安易な相対主義や「社会科学におけるソーシャル馬鹿」が軽口を並べようと、そんなことで軽々しく扱うわけにはいかないものである。しかし、こういう事例は現実にあるわけだし、"takayukikawamoto.com" なんてドメインをもっていようと金がなければ維持できない。オンラインあるいはウェブでのプレゼンスなんてのは、そのていどのものだし、その程度のものとして割り切るのが節度ある態度であろうし、その程度として扱うくらいで多くのリスクを避けられるようにしておくのが望ましいわけである。少なくとも、独自ドメインなんてものに自分のアイデンティティを託すのは軽薄であり軽率だということは確かだろう。ネットやウェブなんてものに、そういうセンチメンタリズムは通用しない。