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倭名類聚鈔 20巻 [8]

古墳時代の馬具について解説された文章を読むと、たいていの方は困惑すると思うのだが、馬具の漢字が難しくて、しかも馬のどこに装着する物なのかも分からないということが多々ある。また、それらの馬具をそのように表記したり読んでいる経緯も分からないし、どこでそんな名称を学ぶのかも知らないという人が多い筈で、これは考古学のプロパーでもなければ簡単には分からないし、こういうことを丁寧に説明してある大学のテキストも少ない。僕が中学時代に愛用していた『日本考古学小辞典』(江坂、芹沢、坂詰/編、ニュー・サイエンス社、1983)でも、「馬具」の項に「馬具の名称は,平安時代の飾馬の名称を使用している」と書かれているだけで、具体的な参照先もない。

ということで、前置きはここまでとして本題に入ると、古墳時代の遺跡(古墳の副葬品として出土するだけとは限らない)から出土する馬具の名称は、原則として『倭名類聚鈔』(わみょうるいじゅしょう)という平安時代に編纂された辞書あるいは事典のような著作物に列挙されている名称を使うことになっている。もちろん、平安時代の馬具と古墳時代の馬具で形状が似ていても用途が違うという可能性はあるし、あたりまえだが平安時代の呼称が古墳時代にも使われていたというわけではない。さらには、現代の僕らが平安時代の著作物に書かれていることを誤解するリスクもあるわけなので、何重にも時代錯誤を引き起こす恐れはある。また、『倭名類聚鈔』には十巻本と二十巻本の系統があって必ずしも平安時代に初めて制作されたままの内容であるかどうかは分かっていないのだが、そういう点はひとまず棚上げして古代史のデファクト・スタンダードとして二十巻本の第十五巻にある「調度部」の「鞍馬具」というセクションで紹介されている名称を使うことになっている。

『倭名類聚鈔』は平安時代に成立した当時の事典として興味深い著作物であり、これがどうしていまだにどこの出版社からも文庫本などで出版されないのか、不思議ではある。名称が列挙されているだけだから無味乾燥で売れないと思っているなら、それぞれの物品に他の絵画から挿絵として追加したり、それらの物品が登場する古典籍を例として挙げたり、あるいは取り上げられている物品に関わる研究成果とかも合わせて解説として加えたら、ちょっとした古文の副読本として高校生にも読んでもらえるし、日本史のプロパーならなおさら有用であろう。

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