Scribble at 2023-12-14 07:46:33 Last modified: 2023-12-14 10:56:52
お笑いのネタを挟んだり面白おかしく説明することだけが唯一の手法ではないにしろ、この人物が話している内容には一理あると思うんだよね。おおよそ、数学の教科書を書いたり数学の解説動画を YouTube で配信するような人物というのは、(1) 何の苦も無く概念を扱える talented、(2) 抽象的な思考はともかく計算が得意な人、(3) 予備校の講師などをやってる受験秀才という三つのタイプに大別できる。そして、上の記事を書いている彼のような受験秀才は、(1) に該当するエルデシュやゲーデルのような天才ではないが、数学に対するアプローチが現実的であり、数学それ自体を探求するというよりも別の目的や目標に向かうための道具として扱えるようなテクニックを解説する才能に長けていることが多い。大学教員が書く参考書よりも、予備校講師の参考書の方が受験生によく読まれているのも、そういう理由があるのだ。
上の引用で彼が述べているように、数学の大半の概念や演算は抽象的であり、抽象的であることに実は数学としての普遍性なり強力な効用があるのだけれど、子供にはそもそも普遍性や強力な応用力を必要とするインセンティブがないため、説得力がない。いくら三角関数が設計現場でも航空機事故の調査でも音響機器の調節でも役に立つからといっても、小学生は建築士じゃないし事故調査委員でもヤマハのエンジニアでもないのだから、そのような応用をいくら説いても小学生にとってリアリティはないのだ。
これは、高校になっても同様であろう。多くの高校生が、そして僕もそうだったが、つまずく単元の一つに対数というのがある。^^log_2 8 = 3^^ というやつだ。これが多くの高校生にとって分かりにくいのは、まず第一に彼らの生活や思考習慣において対数なんて使わないからである。なのに、多くの教員は対数を「対数関数は指数関数の逆関数だ」などとぶっきらぼうに言い放つだけだったり、あるいは「a を x 乗した答えが y であるような x だ」などと、木で鼻をくくったような説明をする。これでは多くの人にとって分からないのも当たり前である。
そもそも、たいていの人々の日常生活においては、対数や指数どころか単純な掛け算や割り算ですら登場しない。風呂敷を広げてものを包む場合や、あるいは家具を設置する広さについて、縦横というサイズを測ることはあるけれど、それで面積がいくらなのかなんてたいていはどうでもいい話である。計算が必要になるのは、所定の幅の隙間にもっと細い幅のファイリング・ケースがいくつ入るのかとか、そういう特殊な場合だけだろう。浴槽に湯を入れて何分後に入浴の準備ができるかというときに、蛇口から出てくる湯の水量を取説で調べてから浴槽の容積を割って、所定の水量が溜まるまでの所要時間を割り出す人など、センサーと自動管理のシステムがついた現代の浴室設備が登場するより遥かに古い時代であっても、殆どいなかった。よって、掛け算や割り算ですらこうなのだから、「a の何乗か」という指数の計算をしなくてはいけないシーンや用途がそもそもないのであるから、実は対数の難しさや分かりにくさは、対数だけの問題ではなく、指数の難しさや分かりにくさ、つまりはそれらの演算に生活上のリアリティがないというところに理由がある。そして上の記事では、そういう事情を生徒の「わからなさ」に着目するという話として(あまり的確な表現だとは思わないが、ひとまずは)伝えてくれていると思う。