Scribble at 2026-10-25 15:58:09 Last modified: unmodified
社会言語学の概論であり、このところメディア論で話題になっている批判的ディスコース分析なども紹介されている。総覧的に話題を並べていて、参考文献(リファレンスという意味での「参照」文献ではない)もひととおり紹介されている。大学学部レベルの講義や初学者のテキストとしては十分だ。ただし、多くの話題で取り上げられているテーマについて、これこれ説としかじか説の分析があるという名前の紹介しかなくて、具体的にどういうアプローチで、どういう議論をして、どういう結論を導いているのかが分からない叙述がある。そこから調べたり学ぶという、教育学ではお馴染みの「発展的」なアクションを期待しているのだろうとは思うが、そういう意図を分からない読者にとっては、いささか雑な記述をしている印象が残るであろう。
もちろん、僕はその批判的ディスコース分析の簡単な解説を始めとして、社会言語学全般に関心をもって本書を手に入れた。そして、上のように十分な量と質の良い教科書だと思う。そこで、一つだけ話題を取り出しておこう。それは、会話のスタイルにおけるジェンダー分析だ。
この分野では古典的な知見になっているようだが、一般的には意外に知られていないこととして、男女に会話の目的というものがあって、それぞれ違う傾向がある。女性は会話を「共感」という指標で取り結ぶ傾向があるのに対して、男性は会話を「差別化」という指標で取り結ぼうとする傾向がある。これを、"rappoprt talk"(ラポート・トーク)と "report talk"(リポート・トーク)の違いと言ったりするようだ。この「ラポート」というのは、心理学で使う「ラポール」と同じ言葉であり、心理学ではカウンセラーとクライエントとの良好な関係や、夫婦や友人について言われる「あ・うんの呼吸」のような関係を指す。そして、必ずというわけではないが、女性にとっての会話とは、このようなラポート・トークとしての充実や成功を目指すものだと期待されるようである。対して男性は、知識の差を示したり、あるいは会話の相手に対する力関係を誇示するような情報の羅列などを優先し、関係を非対象にすることを目指す傾向があるようだ。
このような違いは、会話でも態度や行動にまで現れる。あくまでも傾向というていどの違いだが、女性にとって会話で相槌を打つというのは、「あなたの話をちゃんと聞いています」というシグナルであるのに対して、男性にとって会話で相槌を打つことは「あなたの言っていることに賛成です」というシグナルとなるため、男性は概して相槌を簡単には打たない傾向があり(なんにでも賛成であるとか自分の意見があるとは限らないので)、(相槌が話を聞いている合図だと思っている、多くの)女性を不安にさせることがあるという。