Scribble at 2024-05-02 08:07:22 Last modified: 2024-05-02 08:11:20
闘病中という話は既にご紹介していたのだが、先月の末にとうとう亡くなってしまった。彼の作品は、いま手元にある 4 3 2 1 を除けば翻訳で『孤独の発明』を読んだていどなのだが、どうも昔から書店の棚で見かけるたびに気になっていた作家の一人であった。実は、『孤独の発明』の内容は殆ど記憶になくて、読後感すら定かではない(僕が読書ノートをとったり、子供の頃から勉強では予習よりも復習にたくさん時間を費やしていたのは、それが最大の理由だ。自分でも驚くほど記憶力がない)。それでも、何か彼の作品を読みたくなるのは、やはり僅かに残った印象のゆえなのだろう。逆に、そういう印象がどんどん弱くなると、たとえば伊坂幸太郎作品のように『夜の国のクーパー』あたりから読み進めるのが面倒になって、急に関心が消失してしまったりする。彼の作品の hallmark と言ってもいい、洒脱で軽快な会話が単に軽薄で冗漫なだけの垂れ流しみたいに感じられるようになってしまって、もう全く作品を読もうとする意欲が消えてしまったりする。
ということで、どうも昔から読もうと思っては何か思いとどまるものがあって、不思議な感じがあった。もちろん翻訳でもいいし、彼の作品はさほど大部でもないから金がかかるわけでもない。いや、そういうことだけが理由なら図書館でいくらでも借りられる。でも、そうやってまで読む気も起きるわけでもないのに、なぜか書店で新潮文庫の翻訳作品が並ぶ棚へ行くと、何冊か手にとって眺めたりすることが多かった。そういう不思議な印象を受ける作家であった。
ちなみに、上でリンクしたのは Washington Post の記事だが、NPR では "Bestselling novelist Paul Auster, author of 'The New York Trilogy,' dies at 77" なんていうタイトルで紹介していたのが意外と言えば意外だった。「ニューヨーク三部作」の著者だなんて、まるで日本の地方新聞で掲げるヘッドラインのようなフレーズだ。実は、アメリカでもそこまで広く知られた作家ではなかったのだろうか。まぁ、ヘミングウェイやトウェインに比べたらという話だが。