Scribble at 2025-09-22 15:14:54 Last modified: 2025-09-23 11:48:37
真面目に英語を勉強するなら、たとえば進学校と呼ばれる高校の生徒がどういうやり方をしているかは、僕自身がいちおう大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎という、大阪でもそれなりに知られた進学校へ通っていたので、同級生の話から色々なことを見聞きしているし、僕自身も(下から数えた方が早いくらいの成績だったが)、いちおう偏差値は67くらいあったから、まったくの馬鹿でもない。それに、英語については東大に現役合格して外務省へ進み、そのあと MIT の修士課程を出て Inter Brand という広告代理店の社長をやっていたような人物の二番手くらいで英語を扱えていたという自負がある。なので、苦手科目を少し勉強すれば関関同立くらいの大学なら現役で入っていただろう(実際、僕は関西大学の修士号を授与されているが、大学院の入試で受験勉強した記憶はない。修士のレベルで受験勉強なんてしてる人間は、そもそも大学院へ進む資格はない)。そういうことで、いま現役の高校生が上記のような最新の参考書や単語集を使うとすれば、どういう勉強をするか、あるいはどう勉強すればいいかについて、経験者として説明しておこう。
本書は、単語の選択から例文の作り方まで丁寧な作業を経て、何度か改訂されてきた「ALL IN ONE」シリーズの参考書だ。この「コンサイス」は単語の学習だけに絞っていて、これから文法事項などの解説も加えた本も出るようだが、ひとまずこの単語集だけで十分に有効な教材だ。なお発行元は、受験の参考書では特に有名でもない出版社だ。とは言え、参考書の類は、もちろん多くの生徒が使ってきた「名著」にも効用があるのは確かだが、単なる売上だけだと高校で指定されていて無理矢理に買っている生徒も多いので、参考書として本当に有効かどうかはわからない。なので、研究社の本だからとか、大修館書店だからとか、そういうブランドだけで参考書を選ぶのは愚行だ。とは言え、図書館に参考書が何冊も置いてあるとか、近くに大型書店があるとかいう幸運な事情で多くの参考書を見比べられない(当時はウェブがないので、実際に書店で見る他に比較する方法がなかった)場合は、もちろん定評のある出版社の参考書を選ぶ方が安全ではあろう。
さて、本書は390個の例文を収録していて、新しく学習すべき単語や句動詞などが合計で4,000個ある。まず、これが標準的な単語集と違うところだ。なぜなら、2,000円以下で販売されている単語集というのは、だいたい2,000~2,500個くらいの単語しか収録していないからだ。このコスト・パフォーマンスだけでも高い評価に値する。
そして、日本の大学受験を想定すると、いまでは英検で2級(高卒相当)の語彙を求められるというのだが、その語彙として想定されているのが5,000~6,000語だという。僕は、これはぜんぜん駄目な想定だと思う。実際、6,000語なんていう語彙はアメリカ人に置き換えると小学生レベルであり、そのレベルの語彙で経済や政治や歴史について論じた文章を読むことしかできない大学1年生が、大学生向けに書かれたアメリカの教科書を読むなんて不可能であろう。進学校へ通っている高校生は、大学に入れば(とりわけ理数系だと)英語の教科書を読むていどの準備はするものなので、6,000語では話にならないわけである。僕としては最低でも20,000語は求めたい。もちろん、自分で自在に扱えるほどのレベルで習得する必要はなくて、その単語を知っていて一つは語釈を答えられるというていどに学んでおけばいい。しかし、一度でも単語を学ばなければいけないのは確かであって、全く見聞きしたこともない単語の意味なんて答えられるわけがないのだから、こういう場合の勉強方法は、誰がなんと言おうと「量がすべて」なのである。そういうわけで、この ALL INE ONE の単語集は最適な教材の一つだと思う(ただ、以前も書いたように、最強の単語集教材は辞書だと言いたい)。
ということで、ALL IN ONE を改めて眺めると、4,000の表現をどれくらいで学ぶかという問題になるが、本書で推奨している学習プランはおすすめできない。進学校の高校生を想定すると、1単位で例文を5個とか10個というペースで学習するのは遅すぎるからだ。それだと、1日に10個の例文なら1冊分の学習に1ヶ月以上がかかる。エヴィングハウスの忘却曲線を活用して復習を最低でも5回は実行するとして、後の方になると最初に5回の復習を終えた単語を忘れ始めてしまう。できれば、全体の復習を5回ぶん終えるまでに、最初の単語の復習も含まれている方がよいのだ。そのためには、1日あたりの学習量を20~40個の例文にした方がいい(ただし、後から説明する通り、これはあくまでも初期のプランだ。実際には、学習する分量や所要時間はもっと少なくて済むはずである)。これをノートに書き出して、個々の単語を発音したり、単語を別の単語へ入れ替えてみたり、例文を暗唱するといった練習を40個の例文について行うと、1個あたり5分かかるとして、毎日の勉強時間は3時間ちょっとかかる。もちろん、復習はノートをとる必要がないので、例文だけを眺めて意味が分かるかどうかを確認するていどで、覚えていない単語を再び学ぶという作業の繰り返しになるが、1例文あたり1分として1単位の復習に40分かかる。これが毎日の累積となるから、1週間ぶんの累積だと合計で9時間だ。学習が進んできたら、復習する分量も累積していくのだが、覚えている単語が増えるという前提なら、1例文のチェックにかかる時間は十数秒で済む。とは言っても、仮に計算しただけで長い時間がかかることは分かるだろう。
これを見て、もちろん進学校の生徒でもない限りは「そんなのできっこない」と思うだろうし、社会人であれば不可能だと言うだろう。実際には、これだけを見て出来ないと即断すること自体が、進学校に進めるかどうかの違いに反映されているのだが、たいていの偏差値60もないような高校に通っている生徒にはわからない(そして、そういう高校の教師も教えようとしない)話である。そして、できるかどうか以前に、英語を学ぶことが楽しいとか、膨大な数の予定をこなしていく作業そのものが面白いとか、そういうモチベーションがあるかどうかが重要なのだ。実際、勉強ができるとかできないというのは、何かの才能とかセンスとか本能とか、あるいは持って生まれた天賦の才というよりも、やるべきことを淡々とこなしていく実務能力があるかどうかの方が重要である。こう言っては誤解を生みやすいが、簡単に言えば勉強ロボットになることである。そして、もちろんこういう表現は「人間らしさ」が何か無条件に至上の価値であるかのように錯覚している人にとっては、無味乾燥で意欲の湧かない、人がやるべきことではないかのような印象を抱かせるだろうと思う。でも、鉄工所や包装紙の印刷所やパン工場でアルバイトしてきた経験からも言えることだが、人はそんな簡単にロボットのような作業はできない。「ロボットのような働き方なんてできない」などと利いた風なことを言う凡人に限って、正確かつ単調な作業などまるでこなせない。そして、そういうことを言う人は、何をやるにしても、目的だのモチベーションだのと、観念あるいは他人の言葉に背中を押してもらわないと、何も始めようとしない。僕が、「やるなら、今でしょう!」という誰でも知っているセリフを名言だと思っているのは、知ってはいてもたいていの人はやろうとしないからこそ、やっている人との差が生じるのだという簡単な事実を示してくれるからだ。
では、どうやって英単語の勉強だけに9時間を確保できるのか。もちろん、まとまった時間を確保するのは無理だろう。なので、現代の現役生であれば、スマートフォンにテキストとして保存した例文を通学の列車に乗っている最中に眺めるとか、風呂で眺めるといった工夫ができるだろう。そして、この9時間というのは、実際に時間を9時間分も確保するということではないかもしれない。実際には覚えるべき単語が例文の中にもっと少ないかもしれないからだ。たとえば僕の場合は、収録されている単語をすべて初見で学ぶつもりで購入したわけではなく、パラパラを中身を見ると、知らない単語は1例文でせいぜい一つか二つあるかどうかである。となると、中学までにそれなりの勉強をしてきたなら、こういう教材を使う場合でも初見の単語はもっと少ないはずなので、知らない単語が一つもない例文を覚える意味はないから、例文ごとスルーしてもいいわけである。そのようにしていけば、僕の場合だと学習時間は9時間もかからないわけで、おおよそ2時間ていどでいい。もちろん、最初からこのレベルの高校生は少ないと思うが、やっていくうちに僕のレベルくらいは簡単に超えられるから、心配しなくてもいい。
ただし、実際には ALL IN ONE に収録されているうちで、中学までにしっかり勉強してきている生徒は、おおよそ半分近くの単語を既に知っているはずだ。よって、大学を出るまでに身に着けたい20,000語という目標にとって、この本を一冊だけマスターしても 1/10 しか新しい表現を覚えられない。しかし、だからといって、この手の本を10冊も買ってみたとして、それらにも単語や熟語の収録内容で重複があるだろうから、実際にはもっとたくさんの単語集を買う必要がある。冒頭で書いたように、僕が最強の単語集は、結局のところ辞書であると言っているのは、こういう理由もある。辞書なら、高校で使うていどの中型辞典なら最初から数万語が収録されていて、それらの中で2万語は例文もきちんと付いていて、単語集として販売されている本をノートに書き出すのと同じていどのコンテンツがある。それらの中でどれを学べばよいかは、重要として星印などを付けてある単語を除けば選択に困るかもしれないが、目安としては消去法が良いだろう。つまり、固有名詞や「[生物]」 などと分類が記されている学術用語は後回しにしてもいい。それから、できるだけ動詞と形容詞や副詞を優先して覚えるのがいい。一般名詞などは覚えたほうがいいけれど、なんだかんだ言っても動詞や形容詞を元にした "-tion" や "-ity" タイプの単語も多いから、動詞と形容詞の習得を優先すれば、名詞の多くも類推で分かるようになる。