Scribble at 2024-09-13 08:10:40 Last modified: 2024-09-13 10:21:30
会社で備品として購入した HHKB Professional 2 は、業務に携わる日や時間の大半が自宅となっているため、自宅で使わせてもらっている。しかしながら、キーボードはパソコンに比べて耐久性が高いけれど、会社の業務用デスクトップ・マシンを買い替えるタイミングで、このキーボードも買い替える予定だ。この5年ほど、会社と自宅で HHKB Professional 2 を使ってきた感想としては、そう判断せざるをえない。
一つの理由は、タイプ・ミスが明らかに増えたからだ。これは、僕自身がドライ・アイになったせいで、画面に表示されている文字の正否を判断することが難しくなり、したがってタイポとして放置されてしまうという事情にも原因があるかもしれない。また、腕が疲れやすくなったと感じるので、更年期障害のようなものも関係があるかもしれない。なので、一概にキーボードのせいだとばかりは言えないが、実際にタイプしていて困惑させられることが多いのも確かだ。いくらブラインド・タッチしているとは言っても、たとえば正確に数値を入力したいときは最上段に並ぶ数字のキーを見ながらキーを叩くのが、サラリーマンの操作というものだ。でも、この Professional 2 はキー・トップの刻印がわざと見えにくくなっているため、頻繁に9と0とを間違ったりする(そう考えると、9の隣に0がある配置というのはリスキーだし、数字を入力するときに最も打鍵の回数が多いと思える0を1の左に配置すれば、左の人差し指で簡単にタイプできるのだから、やはりこういう工業製品のデザインというのは合理性だけで採用されているとは限らないのだ)。
次に、やはり慣れてきたとは言っても、やはりカーソルを "; [ ' /" などというキーで操作するのは難しいし、間違って Enter を叩いて酷いことになるケースもある(特にターミナルでサーバにアクセスしてコマンドの引数などを編集しているときに、カーソルを右へ動かそうとして Enter キーを叩くと、そこそこ悲惨な結果になる)。フル・キーボードやワープロ専用機ほど離れた場所に矢印キーがなくてもよく、せいせい HHKB の Lite モデルていどで構わないが、とにかく誤って打鍵した際に直接の影響がないキーの近くにある矢印キーの方が、明らかに作業するうえでは安全だ(Enter キーとは違って、Shift や Alt を間違って叩いても、それだけで何かが実行されることはないので、フェイル・セーフになっている)。加えて、この特殊なカーソル操作をするときに、結局は Fn キーを同時に使わなくてはいけないという点が、微妙に面倒だと感じる。左手にも余計な操作が必要なのであって、右手だけで矢印キーを操作することに比べて合理性はないし、カーソルの操作が速くなるわけでもないのだ。
第三に、これは全く僕の趣味的な話でしかないから、同意してもらうつもりはないが、キー・トップの打刻が見えるようで見えないというのは、予想外にデザインとしてチープな印象を受ける。まるで発売前のプロト・タイプを使わされているような気分になるのだ。それに、こんなもん打刻された文字がはっきり見えようと見えまいと、しょせんキーボードなんて自分だけが使うものであるし、会社の執務室であろうと他人が眺めたり他人に見せびらかすようなものでもない。完全かつ本来的に使いやすさだけが基準なのだ。よって、こういう打刻した文字が見えづらいというのは、やはり極端な選択だったと反省している。そもそも、僕がこういう打刻の文字が見えづらいキーボードを選んだのは、一つには "Professional" というフレーズに惹かれたことだったが(僕が「プロ仕様」の道具が好きだ。耐久性が高くて稼働性能も安定していることが多く、道具として長く使えるからだ)、もう一つは既存のキーボードに今でも打刻されている、あのいまいましい「JIS 配列のカナ」を目にするのが鬱陶しいからだ。日本人で、いまや真面目に探しても100人すらいないであろう、JIS 配列のカナ入力ユーザのためだけに、こんな不合理なキー・マッピングの打刻を残してある事情が理解できない。これを打刻しないと製品が JIS の検定を通らないのか、それとも福祉関連の助成金でもメーカーに出るのだろうか。そんなことはあるまい。これは単なる陋習というものである。われわれ哲学者でもあるエンジニアが付き合う理由も必然性もない。ということで、そういう醜悪な打刻がないキーボードを良しとしていたわけである。
とまぁ、こういう経緯はあったのだが、やはり HHKB Professional 2 は使いづらい。プロのエンジニアとしても使いづらいという結論にしかならなかった。確かに、メモリが限られていた時代にファイル名が8文字以内とされていた頃と同じ感覚で、キーボードのサイズを節約して機能を詰め込むことも、或る種の「合理性」があったのだ。でも、既にそういう制約の元でエンジニアリングを担う必要はなくなっているし、作業環境の制約を考慮しないことが一概に「悪いこと」でも「エンジニアとしての堕落」でもないことは、いまや世界中でメモリの制約など屁とも思わない多数のエンジニアが強力な成果が上げているという圧倒的な証拠によって実証されている。もちろん、CPU の設計を初めとする基礎的な分野では必要な態度だと思うが、制約されたリソースの中で仕事をするという、それだけのスキルで優れた CPU やハードウェアやソフトウェアを開発できるものではない。
というわけで、既にわれわれは、「矢印キー」や numpad(「テン・キー」は "ten" をローマ字読みした和製英語である)というものを備えたフル・サイズのキーボードを手にしており、それを選択できないか選択すべきではないという物理的な制約に身を置かなければ仕事ができないという環境にはない。フル・サイズの、矢印キーを備えたキーボードが使えるなら、それを使えばいいのである。HHKB のような「プロ仕様」をうたうキーボードは他社からも出ているが、そういうものを使うかどうかと、勤め人としての成果とは、いやエンジニアとしての資質ですら、統計的には何の関係もない。寧ろ、そういう道具によって自らの資質が「現れる」などという錯覚や自己欺瞞に陥ることこそ、企業人としてのエンジニアであれば避けなくてはいけない。
そう。思い出してみると、20年くらい前に前職の執務室で使っていた、IBM のフル・サイズのキーボード(モデル名は分からないが、Enter キーだけが IBM blue に着色されていた)がいちばん使いやすかったし、故障もなくて、僕自身の生産性も高かったと記憶している。いまは PS/2 なんてコネクタは対応していないマシンが多いから、中古でもほしいかと言われれば微妙なところだが、同じていどの使い勝手のものが USB 接続で製造されているなら欲しい。だって、そこそこ堅牢な作りで使いやすかったのに、あれ当時のソフマップで1,000円もしなかったんじゃなかったかな。
ともかく、当面の対策として、次に出社する日は自宅にある HHKB Professional 2 と、会社の執務室にある私物の HHKB Lite 2 とを交換しようと思う。まだ Lite 2 の方が使いやすいからだ。