Scribble at 2023-07-21 09:52:20 Last modified: 2023-07-21 12:01:01

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マージョリー・ウォレス『沈黙の闘い もの言わぬ双子の少女の物語』(増補決定版、島浩二・島式子/訳、大和書房、2023)

精神疾患の患者について書かれた本というのは、非常に難しい。脳のはたらきそのものが殆ど解明されていないわけなので、それに関わる疾患の原因や機序あるいは治療法の是非が不明であるから、表に現れることでしか判断しようがないからだ。

本書を読み終えて、僕がまず強く感じたのは、双子の姉であり一人だけ生存しているジューンという人物は、おそらく完治どころか精神状態は改善もしていないように思えるということだった。それこそ表面的な事実、たとえば他人と会話ができるようになったといったことだけで判断してはいけないと思う。

著者が、いくら何百万の単語を読んだとか、何千枚の走り書きに目を通したとか、双子が入院していた当時の病院に何年か通い続けたと書いても、僕には殆ど説得力がない。そして著者は、そうした調査や経験を通じて、この双子には統合失調症の片鱗が全くないと強調している。双子の表面的な記述だけだと両者がともに統合失調症であるかのように見えてしまうのではないかと著者が危惧しているからだろう。確かに、統合失調症と確定できるような特徴はないのかもしれないが、問題はそういう診断の話ではなく、双子ら自身が苦しんできた自分たち自身の心の状態や表に現れる行動のはずである。そして、そこには僕から見て、医学的な診断やその是非がどうであれ、端的に「異常」という以外の言葉がない。発達障害やアスペルガーのような、実はどこにでもいるような人々とは違う。実際に双子は何度も異常な理由や動機で犯罪を繰り返したのだし、自分自身を相手に見て取って、殺したくもなれば一緒にいたいとも思うという複雑な心情を繰り返してきた。実際、いまも生きている双子の一人は、かつてもう一人を殺そうとしたことがあるという出来事について罪の意識はなかったと言っている。

そして、この著者には気の毒なことだが、どうもこの著者自身がいまだに双子の精神的な駆け引きに巻き込まれて付き合わされていることに気づいていないような気がするのだ。精神疾患の専門家を自認するような人に限って、その人自身が異常な人物であることもよくある。特に、テレビに出てきて目をむいて喋るような「カウンセラー」の類いは、医療従事者というよりも何かの新興宗教の教祖としか思えない風貌の人もいたりする。既に亡くなったが、かつてはテレビによく出ていた小田晋氏や、最近はテレビに出なくなったが教育評論家で子供の心理についても色々と(勝手に)語っていた尾木直樹氏など、マスコミ受けという一面はあろうと思うし、おねぇ言葉が異常だと言いたいわけではないが、かなり奇妙な喋り方や発想や身振りが特徴的だった。他にもカウンセラーやセラピストを自称する人々をテレビなどで見かける機会はあったが、かなり奇妙な印象を与える人物が多かったと思う。

ミイラ取りがミイラになって、彼ら自身も精神を病んでしまい、患者の異常さに気づかなくなってしまうために、「治った」とか「改善された」と錯覚することもあろう。そして、本書の著者が双子は統合失調症ではなかったのに医療刑務所へ何年も収容されたことが事態を悪化させたのだと訴えれば訴えるほど、僕には異様に思える。自分でこれだけの異常な思考と行動の双子を観察して、どうして社会に戻せるとか矯正措置が不要だと言えるのか。読んでいて、僕はこの双子には殆ど何の同情も感じなかった。たまたま双子であったがゆえに複雑で深刻な影響関係を及ぼしあってしまったには違いないが、単なる精神疾患の患者だ。しかし、この著者にはいくらかの同情の念を覚えた。

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