Scribble at 2026-07-03 11:16:12 Last modified: unmodified
「プライバシーの危機」というフレーズは、あまりにも多くのブログやメディアの記事で濫用されてきたのだが、必ずしも針小棒大なセンセーショナリズムだけではなく、実際に小さなことであっても軽視していると重大な結果を招きかねない事例だってある。実際、国家官僚の多くは、敢えて些末な問題に大騒ぎを引き起こしてわずかな責任をとっておけば、真の問題までバック・ラッシュによって矮小化されるであろうという知恵は持っていて、こんなことは100年以上も前から行政府と広告代理店が実行してきたプロパガンダの一つであった。「プロパガンダ」と言うと、短絡的なフレーズをまくしたてる大袈裟な宣伝という印象が強いかもしれないが、そもそも「プロパガンダ」がそういうものであるというイメージだって出版社などを巻き込んで印象操作されている可能性すらあるということまで視野に入れるのが、本来のメディア・リテラシーである。もちろんだが、これを特定の誰かがやっているなどという陰謀論にする必要はない。
上に紹介している記事は、米商務省が2026年6月に発した DAO 216‑26 により、差分プライバシーを含む現代的なプライバシー保護技術が全面的に禁止され、1970年代レベルの粗い集計(coarsening)だけが許されることになったという内容である。これは、機密性とデータ有用性の両方を損ない、連邦統計の信頼性と民主的プロセスを危険にさらすものだと著者らは強く警告している。そして、ゲストの著者として、差分プライバシー(differential privacy)の理論を提唱したシンシア・ドゥオークが加わっている。
こうした逆行した施策がトランプ政権で進められている背後に、保守系のシンクタンクであるヘリテージ財団の Project 2025 (https://www.heritage.org/conservatism/commentary/project-2025) だとか、キリスト教系の Center for Renewing America(日本からはサイトにアクセスできない)の主張と同じく、科学的根拠ではなく政治的意図があるとブログの筆者らは指摘しており、特に国勢調査で市民権情報を把握したいという政治的要求があって、オリジナルのデータを復元困難にする差分プライバシーのような技術を排除しようとする動機になっていると説明している。だが、回答内容の機密性が信頼されなくなると企業や個人が国勢調査に回答しなくなる可能性が高くなる。というわけで、記事の筆者らは、国勢調査は民主主義を支えるデータであり、回答率の低下は政策判断や資源配分に深刻な影響を与えると警告している。
ここでは政府機関で統計を処理するための手法が話題となっているので、影響する範囲が非常に広い。かつて日本とか呼ばれている国で、しょーもないキャンペーンのサイトで初等的な暗号化アルゴリズムを最新技術であるかのように喧伝する広告代理店の企画書が大顰蹙を買っていたという笑い話があるけれど、上の記事は国勢調査のスケールであるから、些末な問題ではない。