Scribble at 2021-10-11 11:11:04 Last modified: 2021-10-11 11:13:31

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石山恒貴『上司の教科書 「新しい悩み」への処方箋』(洋泉社、2009)

マネジャーとしてのリーダーシップ開発を指南する本であり、現状認識、失敗事例、そしてリーダーシップ開発に必要な5つのステップをまとめている。

最初に僕の評価を言っておくと、本書はマネジャーとなったばかりの人に推薦できる良書だと思う。現状認識の多くは妥当だし、2009年の時点で既にダイバーシティやハラスメント対応も考慮されている。さすがに人事の実務家が書いたマネジメントの本だけのことはある。

僕が見ている限りでは、人事のプロが書くマネジメントやリーダーシップの本は意外に少ない。なぜなら、答えは簡単である。上場企業だろうと老舗企業だろうと国際的な大企業だろうと、その大半の人事部というのは、はっきり言ってコスト・センターの中でも極めつけと言って良い無能の巣窟だからである(多くの大企業では総務や庶務と呼ばれる〈なんでも屋〉が使い物にならない社員のゴミ捨て場だと考えられているが、実は多くの企業を長期に渡って事業計画としても採用計画としても腐敗させて倒産に追い込む元凶は人事部である)。そして、リーダーシップや経営書を書いている多くの経営者が目の敵にしてきた、組織に巣食う憎き「官僚制」とは、具体的には財務か人事のことなのだ。よって、人事の実務家で本当に使える、そしてマネジャーの育成やアドバイスという観点から言っても妥当なことを言える人間というのは、地球上のあらゆる組織を見ても非常に少ないという印象がある。よって、人事の人材でこれだけまともな人材育成やアドバイスについて書けるというのは、珍しいことなのだ。本書が出てから数年後に、「ちきりん」と称する元マッキンゼーの人事担当者が人事コンサルタントとして色々な採用関連の本を出すようになったが、いまでも人事の人が書く〈まともな〉ビジネス本というのは少ない。

本書で展開されるリーダーシップ開発の具体的な中身は、実は金井氏を始めとする研究者の著作を紹介しているだけなのだが、その選択の仕方と開発についての全体像は、新書の通俗本で著者が個人的な意見として展開する議論としては説得力が高く、無用な違和感を起こさずに実行可能性も高いものである。そして、マネジャー自身のキャリア開発と、自分の部下に対するリーダーシップ開発とを結びつけるという興味深いアプローチを採用している点も一読の価値があると思う。

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