Scribble at 2023-03-10 16:42:17 Last modified: 2023-03-10 17:03:44

csh と tcsh の文献表を、他のテーマで公開しているページと同じく /references のディレクトリに移動させた。そのついでに、幾つか文献を追加してある。その一つが Jim Joyce, “Interview with Bill Joy,” UNIX REVIEW, Vol.2, No.5 (August 1984), pp.58-65 なのだが、一読してもらえば分かる通り、このインタビューでビル・ジョイは殆ど csh の話をしていない。というか、インタビュアーが話を向けようとすらしていないように読めるので、どうもインタビューを受けるに先立って csh の話はやめてくれと言われたのかもしれない。とにかく、vi と ed の話しかしていない印象があって、強い違和感を覚えた。当時でも、いや当時ならなおさら、多くの読者は csh についてビル・ジョイが何を話すのか興味をもっていた筈である。そういうわけで、csh の作者に対するインタビュー記事ではあるけれど、僕の公開している文献表は csh についての内容なので、もう少し丁寧に読んで全く参照する価値がないと判断したら、文献表から外す可能性もある(ビル・ジョイに関する bibliography ではないからだ)。

こういう事例を見かけると、そして他の事例を見てもおおよそ感じることだが、ビル・ジョイはもはや csh については良くても過去の遺産であるか、悪く言えば黒歴史だと自分で思っているのではないか。実際、このインタビューは csh を初めてリリースしてから5年以上は経過しており、既に色々と評価や感想を聞いていた筈である。クリスチャンセンの有名な "Csh Programming Considered Harmful" の元になったと思われる投稿が comp.unix.shell に現れたのは1991年だが、その5年以上も前ですらオリジナルのクリエイターがインタビューに答えたくないと思うほどの評価になってしまっていたとすれば、クリスチャンセンが1991年の時点で「100以上は欠陥がある」と豪語するのも分かる。

でも、だからこそ僕は csh についてきちんと調べる必要を感じる。少なくともエンジニアとして飯を食っている人間がソース・コードも見ずに「お前の母ちゃん、でーべーそー」みたいなセリフを繰り返しているだけでは、歴史を知らずに他の国や都道府県や他人の家庭についてあれこれいう、歴史知らずでありながら伝統主義者を自称するような無知無教養の自称「保守」とかネトウヨと同じである。実際、歴史どころか現実を正確に理解していれば、多くの UNIX や GNU/Linux のディストリビューションから(csh はともかく)tcsh は削除されていない。もちろん、ご承知の方も多いと思うが、FreeBSD は現在もディフォールトの(ルートの)ログイン・シェルは tcsh である(一般ユーザのログイン・シェルは sh だが、これは実は Bourne shell ではなく ash つまり Almquist shell である)。つまり、対話式のシェルとしては有力なディストリビューションでずっと採用されているのであって、そこにも csh / tcsh の何がシェルとして信頼されているのかを学べるであろう。そもそも、逆に言って、シェルとしてすら信頼できないプログラムを50年近くもディフォールトで採用しているような人々の開発している UNIX が FreeBSD なのであれば、情報セキュリティの実務家として、そんな OS を使うことは論外だからだ。

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