Scribble at 2023-11-01 21:05:58 Last modified: 2023-11-01 22:56:38

かなり黒い話をすると、お金をかけずに無料でダウンロードできる電子書籍だけで色々な分野の勉強はできる。15年くらい前だと Scribd が実質的に海賊版の PDF を大量に公開していた。でも、数年ほどすると法的な問題があってか、ビジネス・モデルがすっかり変わってしまって、誰も使わなくなった。その次に、もちろん多くの人は Internet Archive にアップロードされた本を読むようになったが、あそこも色々なところから訴えられて、そのうち貸出(read to borrow)のコンテンツばかりになって、ぜんぜん意味がなくなってしまった。そして数年前までは ebook3000.com というサイトが膨大な量の学術書や大学テキストや雑誌を公開していたが、そこも SciHub が物議を醸したのと同時に当局から圧力をかけられてドメインも取り上げられてしまった。すると次に、z-library の人気が出てきたわけだが、そこも色々なところから訴えられたり、運営者であった二人の人物が逮捕されたりして、いまはドメインを色々な方法で保護したり取り直したり放棄したりという頻繁な対応を繰り返しているようだ。

そういったサイトを眺めてきた一人として(コンテンツのダウンロードについては、ノー・コメントである)、恐らくはかなり多くの分野では修士課程くらいのレベルまでなら十分なだけのテキストや研究書を手にすることができると思うし、z-library などでは学術雑誌の論文も相当な分量になっていて、はっきり言えばアマチュアが科学哲学の勉強やら研究をするだけなら、どれほど洋書を読むのが速い人であっても、たぶん一生を費やしても処理しきれないだけの電子書籍や論文の PDF が手に入ると思う。

もちろん容認したり推奨しているわけではないが、安上がりに勉強するだけなら、簡単なことなのだ。実際、こうしたサイトを利用していると言われる中国、ロシア、そして貧しい中央アジアやアフリカや南米の国で学ぶ学生にしてみれば、いや日本ですらいまや同じ感想を抱く学生が多くいると思うが、たかだか200ページ足らずの学部向けのテキストが20,000円などという値段で販売されているのは、もう書籍代として想定できる許容度を越えているであろう。O'Reilly から発売されているウェブ・アプリケーション関連の本などは、為替レートの影響もあるわけだが、日本のアマゾンで購入すると、もう5,000円以下の本を探す方が難しいほどだ。もちろん高校生でも一週間ほどアルバイトすれば買える値段だと言えばそれまでだが、書籍の値段を数年でいきなり倍にしていい理由にはならないだろう。したがって、これは或る意味では先進国で技術や学問や知識や情報を牛耳っている出版社や大学への、一種の文化的な抵抗(僕の心情として「テロ」とまでは言いたくない)だと言えまいか。もちろん、z-library や SciHub を称賛するつもりはないにしても、どうしてこういうことになっており、そして先進国でもなぜオープン・アクセスという選択肢が普及しているのかを考えたら、海賊版の PDF で勉強している人々を、金持ちのアメリカ人学生が安っぽい正義感やインチキな「フェア」という観念だけで非難できるものではないだろうと思う。

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