Scribble at 2020-10-13 11:35:16 Last modified: 2020-10-13 11:37:42
冒頭から興味深い議論が示されています。昨今は「行政学とは何か」という独自性を追求するよりも、既存の他分野と連携して実績を積み上げる方に比重がかかっていて、研究分野としての独自性や依存性を厳密にするような議論には限界があるし、外から見ると大きな価値はないという事情があるとのこと。それでも本書では、行政学の目的や研究対象について、或る程度は丁寧に解説されています。出発点を見失うという心配はありません。
書店で見比べたところでは、行政学のテキストも他の幾つかの分野と同じく、実務や法律に寄った内容のテキストと、社会思想や政治過程論に寄った内容のものがあるようです。その点、本書は理論や社会思想の議論だけでもなく、あるいは日本の行政を具体的に祖述するだけでもない、基本書としてふさわしいものだと思います。
なお、他の評者は本書に現実の行政システムなり行政実務への批判的な観点が不足していると的外れな指摘をされているようですが、学術研究分野の基本書というものは政治ビラではありませんし、官僚を断罪する手段でもありません。教科書を騙りながら特定の思想へ誘導する道具でもありません。もちろん厳密な不偏不党は難しいものの、プロパーがそういう理想を立てて維持する矜持を放り出せば、基本書としての資格は失われるでしょう。特定の事案なり話題について現実の行政や官吏を批評した文章を読みたいのであれば、新書や文庫本で物書きがいくらでも派手なことを書いているのですから、学術書ではなくそちらを読むことをお勧めします。
・・・と、かなり温和な書き方をしてみたのは、もともと冒頭で引用した愚劣なレビューに対抗する僕のカスタマー・レビューとして投稿しようと思ったからだが、しかし本書をアマゾンで買って読んだわけでもないため、それは控えることとした。上記の引用でも分かるように、「ベスト500レビュアー」などと称していても、その実態は単にレビューの投稿数が多くて自動的に「参考になった」とボタンをクリックされている数が多いというだけのことであって、レビューの中身とは何の関係もないのである。