Scribble at 2021-09-21 11:22:29 Last modified: 2021-09-22 12:52:36

『ティール組織』は「自主経営」とかいう、かつてヒッピーとかが乱交セックスを繰り広げた自営農場みたいなものを理想郷としているような内容を展開し始めたので、もう読むのは疲れるので止めることとした。正直なところ、中間管理職どころか、労働組合もない(したがって大抵は経営側に有利な)組織を詳細に描いている箇所など読む価値があるとは思えない。もう恐らく丁寧に読み返す必要はないと思うが、いちおう所蔵のままとしておくことにした。或る意味では「危険物」として保存しておかないと、後から同じような調子で別の著者が別の本を書いたときに参照できないと困るからだ。

先日の記事でも『ティール組織』について色々と書いたが、The New York Times に唯一掲載されている書評が下記の記事だ。ちなみに、著者の Frédéric Laloux については Wikipedia にエントリーすらない。もちろん学者ではなく、経営に関する著述家として他の著作がないのだから、簡単に言えば一発屋という扱いで終わってしまっている。いまだにこの手の〈作品〉を有難がっている東アジアの土俗的な人々にとっては深遠で難解な古典的業績なのかもしれないが、実際のところ他にも同じようなスピリチュアル系のビジネス本なんて、アマゾンで簡単に検索すれば1冊1,000円くらいの手頃な本が山のように出版されている。

https://dealbook.nytimes.com/2014/09/19/putting-soul-back-into-business/?searchResultPosition=2

ビジネス本について言えることとして、実は同じ方針や同じ発想が別の著作として、ほとんど同じ論旨のままで繰り返されているだけという事例がいくつもあるのだ。したがって、そんなことは既に『ティール組織』という本で展開されていると指摘できるために、資料として手元にあったほうがよい。しかし、そうは言っても僕は経営学にさほど時間はかけたくない。会社を経営するつもりもないし、どこか別の会社へ移ったとしても、マネジャーとして部署を管理するほどの任に就くかどうかもわからないからだ(もちろんギャラが安くて権限もないのに責任だけ要求されたら、やる必要などない)。まずもって、いまビジネス本を読み漁っているのは、僕と連れ合いあるいは親族という狭い共同体において適した振る舞いとかルールを決めて実行したいからだ。しょせんは僕らの生活や信条を貧困や脅威から守ってくれるわけでもない他人なんて実際のところ二の次であり、どうでもいい。しかし、どうでもいいからといって杜撰に扱うと損だからこそ、他人に対しても適切に対応する必要があってビジネス書を読むのだ。

ということで、次にデブラ・E・メイヤーソンが書いた『静かなる改革者』(ダイヤモンド社、2009)を手にしている。実は、この本は最初に書店で見つけたあとは放っておいたのだが、「こういう主旨の本があった筈だ」と思い出して、わざわざ調べて買ったものだ。事情としては、僕はいまの会社へ15年前に入社したときから殆どの期間にわたって役職者なのだが(一時期だけ取締役だった頃もあるし、短期間だけ経営管理部の平社員だったこともある)、実際には半分くらいの期間は部下がいなくて単独で行動している部門長であるため、あからさまに業務命令として個人情報の保護に注意しろとか、セキュリティに配慮しろなどと言っても、会社員なんてたいていは他の部署の役職者が言うことなど聞いていないものだ。よって、アプローチとしては権限とか命令系統とは関係なしに人を動かす方法を模索しないといけないわけである。この本は、主旨(書かれてあること)については具体的に是非を判断できないまでも、趣旨(書こうとした目的や動機)としては興味深いので、読む必要があると思った。

ただし、手放しにこういう本が有益だと思っているわけではない。なぜなら、権限がないのに組織の〈軌道修正〉ができるということは、逆に言えば平社員が会社の方針を捻じ曲げて好きな方へ向かわせることもできるという話だからだ。そして、実際のところそういうものは社員の悪意ではなく、寧ろ無知や無頓着ゆえに起きる。それゆえ気づきにくいし、誰を責めるわけにもいかなくて是正が難しかったりするのである。凡人のやらかす無邪気な〈悪行〉こそが、最も着実で力強く、また広範囲で同時に発生する可能性があるため、誰か一人を止めさせても終わらないという難しさがある。これは、いかに東大だろうと学卒の集まりでしかない日本の官僚のような集団をコントロールするという課題においても同じ難しさがある。

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