Scribble at 2020-09-19 13:38:47 Last modified: 2020-09-21 07:16:37

ともかく、色々なメディアを見ていると話題になっているのはどこもかしこも広告、広告、広告だ。しょせん凡人が作るものなんて五十歩百歩だから、認知度を上げたり優良誤認させたりするしか他より抜きんでる方法がない。そもそもにおいて、自分たちが作り、提供するものがガラクタばかりだからこそ、こうして広告手法や広告の成果ばかりが話題になる。テレビの視聴率しかり、ネイティブ広告の提供方法しかり、特定電子メールに関わる規制しかり、ダーク・パターンの批評しかり、オンライン・マーケティングの道具であるアクセス解析のノウハウしかり、ブラウザの広告ブロッカー対策しかり。

しかし、このような実情にはそれなりの理由がある。昔から、良いものさえ作っていれば客は自然と口コミで増えてゆき、そして良いものを使い続けることになるので離脱率も低いと言われてきた。しかし、それが往々にして技術者の自分勝手なこだわりにすぎず、そういう品質レベルを要求することによる高額な価格設定での購入を試すこと自体が贅沢であり、同じチャレンジなら安い商品で失敗する方が痛手は少ないと多くの人が考えることも合理的な判断であろう。

例えば、1年だけ快適に使えるフライパンが2,000円だとして、10年も快適に使える高性能なフライパンが30,000円だとしよう。いかに後者の快適さが10倍も長く継続して1年あたりのコストも割安だとしても、多くの人は30,000円という原資を持っていないため、たとえ長期的には無駄だと分かっていても、前者のフライパンを毎年のように買い替えるだろう。

人は品質だけで商品やサービスを選ぶわけではなく、一時の日本のメーカーはそれをよく理解して海外へ商品を大量に売りさばいていたはずなのである。それが、いつごろからか高性能な一点物を丁寧に作ることが「ものづくり」の典型と持て囃されるようになるという、偽の伝統が捏造されるようになったというわけである。

さてしかし、上記のフライパンの事例を続けてみると、高額な商品を低所得者でも買えるように、世の中には月賦販売やローン、あるいは消費者金融というものがある。確かに、多くの家庭では3万円ともなると、月次のキャッシュフロー(家計について使うのは大袈裟だが、会計学の言葉を使う方が結局は意味が明確になる)として大きすぎる出費となる調達だ。よって、キャッシュフローに加わるインパクトを小さくするために少額の出費として分割できれば楽になる。もちろん、その代わりに利息がつく。30,000円のフライパンを、どこかの甲高い経営者が自社スタジオで収録している通販番組のように月賦で購入すると、金利手数料も負担してくれる。10回払いだと単純に10で割った月額3,000円で買えるので、確かに多くの消費者が(実質的には型落ちでメーカーから大量に投げ売りされた製品に)飛びつくのも無理はない。

言ってみれば、現在の「ものづくり」信仰で紹介されるような商品とか職人のこだわりみたいな話は、国内で普及していた輸入品や伝統工芸品の一点物についての話だった筈で、大手白物家電メーカーや IT ゼネコンの技術者が口にするような話ではなかった。もちろん、そういう場所でもそれぞれの工夫はあると思うが、企業の工場においては単なる JIS に準拠した品質管理や QC 活動が実態であり、それを超えるような理念によって支えられる強いこだわりのようなストーリーは後知恵であろう。

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