2021年07月20日に初出の投稿

Last modified: 2021-07-20

「ハヤカワ新書 Juice」というレーベルで、早川書房が新書版の本を書き下ろしや翻訳で発行していた時期があった。アマゾンで調べると、このレーベルを掲げる体裁の本を新刊として続々と出していたのは2009年から2010年にかけての約2年間だけであり、現在は続刊がなくなって10年以上が経過しているため、実質的にレーベルとして休止したものと考えて良いのだろう。僕も、このレーベルで公刊された本を何冊か手にしている。もういまでは、特に日本では過大評価としか思えないジャロン・ラニアーの著作や、あるいは最近の IT 関連の書き手としては無数にいる〈一発屋〉の一人であろう、ジョナサン・ジットトレインの『インターネットが死ぬ日』などだ。

このレーベルが、はっきり言えば失敗した理由は幾つか考えられる。それらの中で最も有力と思える理由は、〈PHP文庫で読むようなテーマで2,000円の本を出しても売れない〉ということである。インターネットがどうとか、最新の科学の成果ではこう言えるとか、その手の読み物は日本でも夥しい数の自称メディアや旧来の出版社が運営するサイトで幾らでも読めるからだ。

取り上げられているテーマの多くがネット・ベンチャーのアイデア紹介だとかインターネット文化に関わる考察であり、ほぼ当てにしている読者層が2,000円ていどの本を気軽に買える都内のネット・ベンチャーや IT 企業に勤める新卒や技術系の若手社員といったところだが、彼らはこういう文章を hatena ダイアリーや Notes で大っぴらに公開される記事で山のように読んでいる。別に彼らは、ラニアーとかジットトレインのような名前、あるいはハーヴァード・ロー・スクールの教員という肩書をフックにしてものを読むのではない。そして、これはこれで或る意味では〈健全な〉態度だろうと思う。そして、ラニアーやジットトレインの議論が無料で大量に読める無名の人々の議論よりも格段に優れているのかというと、ぶっちゃけ言って大したこと無いと思う。素材としての事実なり学説を調べる時間と金銭がありさえすれば、その程度は誰でも展開できるような議論だったりするのが、アメリカですら情けないところだ。

それに加えて、新書というサイズに拘ったのも失敗の原因だろう。いくら1,000円を超える新書が続々と無頓着に出版されて久しいとは言え、やはり新書は手軽に読める内容と値段の商品だという常識が強く残っていると思うので、それに反して2,000円以上もする分厚い新書を出されても、それは新書版というサイズにしただけの単行本だろうという気がする。ところが逆にそれだと、単行本の値段や内容であるにも関わらず、安っぽい新書サイズと装丁では見劣りがするという別の欠点が目立つことになる。

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