Scribble at 2023-09-19 19:04:25 Last modified: 2023-09-19 22:19:21

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「おはじき一〇〇個」は「多い」のに、「一〇〇という数」は、「大きい」というのはなぜか?「今は平成一九年」とはいえるのに、「今は三日」といえないのはなぜか?同じく面積の話なのに「庭」は「広い」で、「ハンカチ」は「大きい」のはどうしてなのか?ふだん何気なく使っている「数」「時」「量」のはかり方を少しつっこんで考えてみると…。探るほどに不思議で、精妙な論理を持つ日本語の世界へご案内。

久島 茂『はかり方の日本語』(ちくま新書、2007)

こういう本は眺めていても、それから理屈を教えてもらうにしても、とにかく面白い。そして、実際に自分で使っている言葉なり表現の仕方を思い返しても、思い当たる節が多い。

たとえば、「1より9は大きい」と言っても違和感はないと思うが、「1より9は多い」と言われると少し違和感を覚える人もいるだろう。そして、「1個より1個は大きい」と言われると、やはり違和感を覚える人はいるかもしれないが、「1個より9個は多い」と言われたら違和感はないと思う。これは序数や基数、あるいは連続量なのか離散的な値なのか、あるいは他の違いがあるから理由はなんとなく想像できるのだろう。

想像できる脈絡をみんなだいたい掴んでいるからこそ、誰かにいきなり「私にとってこの数は多い」と言われた場合と、「私にとってこの数は大きい」と言われた場合とを比較しても、この発言をした人物にとってどういう数が念頭にあるのかは、なんとなく想像できるのである(たとえば前者は売上目標の「個数」だったり、後者は売上目標の「金額」なのかもしれない)。とまぁ、もちろん日本語だけに限った話ではないけれど、言葉なり言語には色々と複雑な用法というものがあって、単純な統語論の規則だけで「まともな」文章だとか「正しい」文章を書けるというものではない。

これは言葉の選び方だけではなく発音にも言える。たとえば、

「0.2」

これは、誰でも「れいてんに」と読むであろう。しかし、

「0.12」

だと、「れいてんいちにい」と読む人が多い。なんでこの場合は「にい」と読むのか。本書の説明では、小数点以下に他の数字が加わると単音の数字は音の長さの調子を他の数字の発音に合わせようとして「にい」になるらしい。実際、これは単独の場合は単音で呼ぶ他の数字でも同じことが起きる。たとえば、

「0.5」

これは、誰でも「れいてんご」と読むであろう。しかし、

「0.75」

だと、「れいてんななごぉ」と読む人が多い。

こうして読んでゆくと感じることだが、或る言葉に別の言葉が繋がることを自然と言い、そうでない場合に違和感を覚えるという規則性について、音韻論や統語論からの静的な説明や解釈はできるのだが、ではどうしてそういうパターンが規則性をもつようになったのかという動的ないし発生論的な説明や解釈は難しい。これは、僕が学んでいた考古学つまり歴史学にも言えることだ。或る遺跡で出土した遺構や遺物が、他の遺跡と同様に特定の位置で見つかるとしよう。たとえばゴミ捨て場だったと想像される穴に貝殻や割れた土器などが集積されているような状況である。そういう規則性を想定して、別の遺跡で見つかった貝殻や土器の破片が集積した場所をゴミ捨て場だと比定することは容易い。しかし、どうして特定の場所にゴミを集めるようになったのかという説明は、そういう規則性だけでは何も分からない。銘々の世帯で集落の外へ勝手にゴミを捨てても良かったわけである。それが、なぜか集落の付近にある特定の場所だけに集められたとすれば、それはどういう事情によってなのか。こうしたことは、表面的な規則性だけでは分からないので、他の規則性や推定も一緒に考えないと分からない場合も多いわけである。

[追記] この記事を更新するときもヘテムルのサーバがタイムアウトしてしまった。まったく、利用料金が跳ね上がったのにパフォーマンスが逆に低下するとは、困ったサービスである。20年ほど前に interQ から移ってきて以来の利用者だが、そろそろこの会社も初心を忘れて親会社のように杜撰なスペックのサーバを運用する商売になったのだろうか(僕はこれまで担当してきた大手代理店案件で絶対に GMO のレンタル・サーバは使わなかった。あそこは、そもそも管理システムですら平気でタイムアウトするようなサーバしか客に提供していない。それに比べて AWS なんて3年ほど使ってコンソールがタイムアウトしたことなど一度もない)。

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